「天皇の世紀 10」 大佛次郎

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朝日新聞社 ★★★


tennou.jpgなんとなく全12巻くらいはあるかと思っていたが、この10巻がいきなり最終巻。しかも前半の3分の1くらいで絶筆で、残り3分の2は索引。ヒョイとすかされたような印象が残る。3カ月以上にわたって斜め読みながらもチビチビと、惜しむように読み進んできたのがついに終わりになってしまった。

不特定多数が借りる図書の宿命だが、5~6巻あたりまではシミがあったり汚れが目立っており、ページを開くとカビの臭いがただようようだった。しかし最終巻はまだ美麗。心なしか新鮮な紙とインクの香りすら残っている。

北越戦争で河井継之介が脚を撃たれたところでこの連載が終わったとは今日まで知らなかった。たしかこの後の河井は退却に移り、司馬さんの本で得た知識によれば、従僕(松蔵だったかな)に夕暗せまる庭で火を焚かせ、その炎を横になって眺め続けることになるはずだ。

前巻の世良(長州)とも共通するが、これまで抱いていた土佐の岩村精一郎(河井の懇願をにべなく蹴って北越戦争を勃発させてしまった男。後に男爵)のイメージも微妙に変化した。今までは、なんという分からず屋だろうと思っていたが、考えてみるとこれは河井の方に無理があるというべきだろうな。実際、ここで岩村が妙にものわかりのいい男だったら奥羽北越戦争も中途半端になり、明治維新の方向性も変わってしまったかもしれない。あの段階で長岡藩が中立を守り切るなどどいうのは、やはり虫のいい幻想にすぎなかったのだろう。河井の、あまりに巨大な自負心の空回り。