「我が心はICにあらず」小田島隆

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BNN ★★★★

先月の駄文(些事日乗)で小田島流・貧乏と貧困の定義をおぼろな記憶で書いたが、思いついて本棚から引っ張りだしてみたら、かなり違っていた。いいかげんなもんだなー。

正しく引用すると「貧困とは昼食にボンカレーを食べるような生活の事で、貧乏というのはボンカレーをうまいと思ってしまう感覚のことである。ついでに言えば、中流意識とは、ボンカレーを恥じて、ボンカレーゴールドを買おうとする意志のことだ」(ハッカーの金銭感覚より)

刊行されたのは昭和63年。そんな昔になるのか。この頃の小田島隆という人、活躍の舞台はあくまでマイナー誌ながら、ギラギラ輝くような感覚と才能、鋭い文体が魅力だった。将来どんな書き手になるのか、楽しみだった。その後たしか朝日新聞の「パソ」に連載を持ったはずだが、その鋭角さが急に鈍っていて失望した記憶もある。言葉は悪いが、荒野の狼が牙を隠して座敷に上がったら、ただの室内犬になってしまったような印象。小田島氏の毒のある個性と大朝日では最初から不幸な結婚だったんだと思う。

あらためて読み直しても、文体は相変わらず輝きを失っていない。天才的なものさえ感じる。もちろん書かれている内容自体はさすがに古いし、テーマも陳腐(というか、当時の掲載誌に問題があった)だが、それでもまだピカピカ光っている。東京に等高線を引いた場合の「赤羽崖っぷち論」など、何回読んでも笑える。

念のために調べてみたら、小田島氏のホームページもあった。本もいろいろ出しているらしい。少しホッとした。心ひそかに応援していた人なのです。