木戸孝充伝、と言ってもいいのかな。長州の大立者 桂小五郎を中心とした幕末から明治初期です。文庫で全4巻なんだけど、例によってそのうちの2巻と3巻。内容としては蛤御門あたりから廃藩置県あたり。
木戸という人物、面白いですね。比較的(あくまで比較的ですが)人格にバランスがとれている。開明的。親分肌で部下の面倒をやたら見る。しかし決して粗野豪快ではなく、いじいじと内向的、女性的。すぐ拗ねる。
たしか第1巻だったと思うけど、木戸は当時としては大男だったと知って、これはびっくりした記憶があります。「力斎藤」とうたわれた斎藤弥九郎道場で塾頭をつとめたくらいで、五尺八寸くらいあったということです。これは、大きい。ちなみに坂本龍馬も大きかった。渋沢栄一は超小さかったけど、その渋沢が「伊藤博文は私と同じで小さかった」とも語っているとか。こっちの方はイメージが合います。
この幕末明治というのは、実にややこしいですね。というより、いつの時代だっていつの人間関係だって複雑に決まっている。明治になってからも伊藤、後藤、山県、黒田、海江田、ついでに旧藩の殿様やら国学者やらキリシタンやら。どいつもこいつも勝手な思惑で勝手なことをやりまくる。あいつとこいつが喧嘩して、こいつとあいつが罵り合って、で、木戸がうんざりして、拗ねて、隠遁して、日本各地で一揆がおこり、反乱が勃発して、仕方なくまた出ていく。
明治維新という事業、よくまがりなりにも成功したものです。奇跡ですね。まっとうに考えたら成功するはずのない条件だったのに、何故か成立してしまった。感慨にとらわれます。
村松剛の文章、やはりいいです。端正とでも言うべきでしょうか。端正すぎて、読むのに時間のかかる本ですが、好きです。