厚さが5センチはあります。ずっしりと重い。なんせ初回から先日の「遺言」までの脚本を収録してあるんですから。発行は去年の夏あたりのようです。
倉本さんの脚本は読みやすいですね。情景がどんどん浮かんでくる。ひたすら時間はかかりますが、飽きません。
私、テレビの方はそんなに真面目に見ていなかったので、けっこう抜けや思い込みがあるのですが、それでも意外だったのは
・黒板五郎(田中邦衛)の別れた妻(石田あゆみ)が、テレビの印象とは違って生々しい血の通った「女」であるらしいこと。
・五郎の義理の妹(竹下景子)も、心が揺れ動く「女」であったこと。牧場のアンちゃん草太との関係も、必ずしも一方通行ではなく、実はけっこう可能性があったらしいこと。
・分校の先生(涼子)も、ただ能天気なだけでなく実は深い傷をかかえた女であったこと。
要するに、石田あゆみや竹下景子が演じた役は雰囲気がきれいすぎて、私のようないい加減な視聴者には彼女たちの「揺れ」や「痛み」「情感」が読み取れなかったということなんでしょうね。もう少し皮膚の厚い感じの女優さんが適役だったかも知れません。
過酷に厳しく、しかしリリックな富良野の自然を唄いあげているようでもあり、そこに暮らす人々は傷つけあい、騙しあい、かばいあい、笑い、ひたすら耐え抜いているようでもあり。単なる自然讃歌ではないし、かといって人間の貧しさ哀しさを読者の目の前に放り投げて、ただサラシモノにしているわけでもなし。だからこそ独特の読後感が残るのかもしれません。
「ライスカレー」の脚本のときも感じましたが、倉本さんというのは、やはり「上手な人」なんだと思います。非常に計算されていて、人間のドロドロを描いて、でももう少しで厭味になる寸前で止めている。それでも時々はやりすぎてる部分もあるようですけどね。
あっ、テレビの最後「遺言」のトド(唐十郎)の流氷帰還と乱痴気騒ぎは遊びすぎ。というより、さしもの倉本さんも唐との対決には力負けしてしまったのかな。「トド」の演技は倉本ドラマではなく、状況劇場みたいでした。
追記
結局のところ、テレビをかなりいい加減に見ていたんだなー。人間関係なんかも、記憶とはかなり違っていた。