「鴎外の坂」 森まゆみ 

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新潮社 ★★★


ogainosaka.jpgなーんにも知らないもんで、森まゆみという人は鴎外の孫かなんかかと思ってしまった。どうやら関係ないみたいですね。

坂の家というキーワードで描いた鴎外記。なかなか面白かったです。鴎外について自分が何も知らなかったことがわかった。いつだったか嵐山光三郎の文人悪食で読んで、ご飯にアンコをかけて食べていたとか、家人に対しては公正で温和な人だったとか、ケンカ鴎外とはまた違う像を知ったのですが、今回はより総括的に知ることができました。ま、天才であり、バランスのとれた社会人であり、コチコチの明治人であり、といって完全無欠な石部金吉でもなく、適度な弱さもあり・・・・。

意外だったのは医学部を7番だったか8番だったかで卒業したということ。てっきり文句なく一番卒業かと思っていた。で、順位が低かったのですぐには留学させてもらえず、しばらく千住に開業していた父を手伝っていたということ。これだけではなく、鴎外という人、完全な出世王道の真ん中に乗っていたわけではなく、王道は王道でも絨毯のちょっと端を歩いていたような印象が残ります。後年のカッケ論争にしても、そうですね。なんでもできた大巨人のように見えるんだけど、でもかすかにキズがある。

本筋とは違いますが、鴎外の妹の喜美子という人の文章がよかった。明治の人の品のいい文章とはこういうものか、という感じ。小金井喜美子。小金井良精の夫人です。名前を知ってる程度で何も読んだことはなかったので、こんど探してみよう。兄弟姉妹は仲がよくて、喜美子が風邪で寝込んでいたら林太郎お兄様が湿した筆で唇に水を塗ってくれている。何してるの?と聞いたら、いや、高熱のあとは唇が乾いて切れることがあるから・・。

感動ものでもあるし、ちょっと怪しい印象も残るし。そういえば夏目漱石も奥さんの襦袢かなんかを着て鏡を見ていたことがあったらしいですね。紅も付けたっていうんだったかな。謹厳な明治人の、意外な側面とでもいうか。