早川書房 ★★★★
「氷と炎の歌」と題したファンタジーシリーズの第一巻。「七王国の玉座」の原題はA GAME OF THRONES。
表紙は女子高生むけみたいで超ひどいけど、中身はいいです。久しぶりに面白い本を読んだ充実感があります。ローカス賞受賞作。しかし、しかしそれにして装丁は内容と乖離して悲惨だなー。写真は上巻ですが、下巻に至っては乳房もあらわなな女王かなんかの絵で、これだけで潜在読者の7割くらいは逃がしてる。恥ずかしくて電車の中で読むにはかなり勇気がいります。最近の早川書房って何を考えてるんだろ。
舞台は中世のブリテン島を思わせる封建の世。ハドリアヌス防壁を連想させる巨大な氷の壁の北は異形人が彷徨しているし、海を隔てた荒野にはフン族みたいな弁髪の騎馬民族が荒し回っている。で、大狼や黒牡鹿、金獅子などを紋章とする誉れ高い大貴族たち及び一族が激しく争い、騙しあい、陰謀渦巻き、王位を狙う・・・。
登場人物はやたら多いです。最初のうちは誰と誰がどういう関係なのか、間違いなく混乱します。でも50ページくらい読んでるうちに、だんだん筋が見えてくる。
極悪非道の騎士、魅惑の悪騎士、愚かで頑固な騎士、知恵だけが武器の高貴な血筋の侏儒。子供たちもたくさん登場します。健気な王子、たくましい少女。愚かな美少女。素晴らしいのは、人間が決して類型的ではないということでしょうか。細部がよく書かれていて、魅力あるキャラクターが多く、感情移入しやすい。
ファンタジーというより極上質のSF、あるいは充実した歴史文学の雰囲気すらあると言えるかもしれません。そうそう、一言唱えれば火炎がほとぼしるような便宜主義魔法はほとんど出てきません。ただ皆無というわけではなく、最後の方でほんの少しだけなら、ありますが。
続編(巻2: A Clash of Kings、巻3: A Storm of Swords)を早く読んでみたいけど、どうせ刊行は時間がかかるんだろうなー。作者は全6巻の予定だそうです。
追記:
装丁は目黒詔子という人だった。こういうタイプの絵をかく人に依頼した早川書房が悪い。どういう読者層を想定してるんだろ。
追々記:
この本、どう形容したらいいのかなー。コニー・ウィリスの「ドームズディ・ブック」ほどは叙情的でなく、ダン・シモンズの「エンディミオン」シリーズよりは妙な偏愛がなく、ヒロイックでもなく、SFチックでなく、マイクル・クライトンの「タイムライン」よりは人物が描けていて真実味がある。そんな書にル・グィンの「ゲド戦記」の味をちょっと振りかけ、ウォルター・スコットの「アイバンホー」も混ぜこんだような・・・。説明しきれませんね。