何なんだ、この男は。
いきなり近寄ってきた男に、私は思わず身を引いてしまった。Wood Elfというのか、威厳のかけらもない貧相な小男。それともこの愚鈍さは見せかけだけなのだろうか。馴れ馴れしくすり寄ってきて、指輪を知らないか、と唐突に聞く。
もちろん、私はその指輪を持っている。事務所の中庭に転がっていた樽の中に発見したのだ。たいした値打ちのものではない。しかしこんな指輪でも売り払えば多少のGoldにはなるだろう。旅が始まったばかり。何をするにもGoldが必要になることは目に見えているのだから、私は嬉しい気持ちで懐中におさめた。
それなのに、この愚鈍そうな男は指輪を探したい、取り戻したいという。
ほんの少しの葛藤の後、私は親切を演じることにした。安物の指輪。返したほうが無難であることは確かだし、旅の始まりからトラブルをかかえこみたくない。ほれ、この指輪だろ。取り戻してあげたよ。喜びな。
嘘か本当かは知らない。男は近くの店の主人に口を聞いておいてあげると、ニタニタしながら言う。ありがとう。私は一応、礼を言う。確かに買い物をする必要がある。船倉で汚れきったシャツ、汚いパンツ、こんな姿でうろつきまわっていては浮浪人あつかいされるのがオチだ。そう、先ほどの銀器が売れるかもしれない。武器も欲しい。私はその店を探す事にした。