「ベル・カント」 アン・パチェット

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早川書房 ★★★

canto.jpg 南米の某国。貧しい国の副大統領邸で開かれたパーティ。主賓はニッポンの大企業社長。彼をこの地に誘い出すために、超人気の歌姫も参加する。この社長、実はオペラにぞっこん惚れ込んでいて・・・・。

ま、以前のペルーの日本大使館襲撃事件が下敷きですね。数十人の世界の要人(といっても本物の超VIPはいない)たちと、比較的穏健なテロ集団の間に芽生えるストックホルム症候群。要人たちは強制的な無為の休暇が得られたし、貧しいテロリストたちは豪華な施設とハイテク、食事、娯楽に酔いしれる。しかもタダで歌姫の詠唱が毎日聞ける。隠していた、あるいは知らなかった才能が芽をだし、愛までも目覚めてくる。

いい雰囲気の本です。虚構の楽園、みせかけのアットホームであることは人質もテロリストも承知のはずなのに、だんだんはまってくる。もちろん、最後は現実が襲いかかり、虚構はあっけなく崩れさります。

なんというか、全体に漂っているユーモアの感覚がストーリーの荒唐さを救っているような感じでした。楽しめる一冊です。