板東英二というのは、あの元中日のピッチャー、テレビでやたらよく見るタレントです。役者としてもいい味がありますね。
この本が図書館の本棚にあることは以前から知っていました。タイトルをチラッと見て、器用な男だなー、小説まで書いてるのか、と思っただけでパス。たいして面白いわけないじゃないか。
それがフとしたはずみで借りてしまいました。「赤い手」および「赤い手 運命の岐路」の二冊です。
「赤い手」とは、敗戦後の満州・朝鮮国境付近、いつ動くか、いつ止まるか知らない貨車に乗っていた引揚げ家族、6歳の少年の手です。止まっていた貨車が前触れもなく突然動き出す。下に降りていた6歳の子供は必死で貨車に追いすがります。でも栄養失調の子供の足には走る力がありません。置いていかれたら、後は死のみ。
背後に迫る死を本能で知っている子供は、よたよた走りながら手を伸ばします。母親も必死で手を伸ばします。ようやく手と手が触れ、渾身の力で握られ、ひっぱり上げられる。生還。カサカサの汚い細い手は、握り締められて真っ赤に充血しています。満州の赤い夕日がその手を染めています。
そういう少年時代を持っていたんですね。徳島での貧しい引揚者生活。父親との確執。母への盲愛。しかもその母が、一時とはいえ少年を満州に捨てようと決心したことを知る。その母の決心を鈍らせたのも、6歳の子供の本能的な生への執着でした。
ただ、畑荒らしを常習としてきた貧しい少年は足が速く、野球に才能がありました。中学時代に町のヒーローとなり、野球部入学を条件に徳島商業へ進学。狂気の沙汰ともいえるチームの猛練習。甲子園出場。進学断念。プロ入り。そしてまた恋、事業、危機、成功。
全編を通しているのは猛烈な生への執着心です。富への執念。真っ白な飯に対する執着。貧乏はイヤだ。うまいものを食べたい。称賛されたい。成功したい。
たぶんゴーストライターを使っていると思うのですが、素人くさい文章です。構成もちょっと臭い。でもその臭さがいいですね。見栄っ張り、欲たかり、自分勝手。そうした欠点を隠そうとはしていない。そうしたあらゆる欠点を含めて、板東英二という存在が、多分ある。