副題は「庶民の生きた明治・大正・昭和」
茨城の田舎に開業したお医者が、面白い婆さん出会います。なんというか、実に図太い。したたか。人を食っている。
だいたい、そもそもが、自分は静脈が出ない体質で注射が難しいのを承知で、わざわざ「血をとってくれ」と医院に来るんです。新任の医者が四苦八苦するのを見て笑ってやろうという意図。で、医者は腕も千切れんばかりに縛りあげて、無理やり血管を浮き上がらせて採血してしまう。そこで婆さんに気に入られた。
ということで、この婆さんをはじめとした、地元の老人たちからの聞き語りです。平凡な茨城の田舎の人たちの少年時代、少女時代、夫婦の暮らし方、嫁姑の話。出産の話。夫婦喧嘩の話。実に貧しいです。悲惨でもあります。間引き、身売り、病、極貧。徴兵されて軍隊に入ると、楽で楽でたまらんと喜ぶような境遇の人たちです。2.26の青年将校決起の背景がわかります。
でも、妙に明るいんですよね。あっけらかんとしている。たくましい。恨んだり、僻んだりはしていない。おそらく自分を特に不幸とも思っていない。ほんの数十年前まで、日本の田舎はこんなふうだった。
ちなみに「ちじらんかんぷん」とは、イタイノイタイノ トンデケ!みたいな、民間呪文だそうです。