文久というから、もう幕末も末の方だが、「参宮道中諸用記」という文書が残っているらしい。中身は旅の小遣い帳。ただし、ただの出納帳ではなく、東北出羽の中年女性が、ふと思い立って全国遊覧の旅に出た、その出納メモ。
どういう境遇のどういう人だったのかは不明のようだ。かなり豊か自由な身分だったことは確か。どっか行きたいなーと思っていたところに、急に「私も行きたい」という人があらわれたので、じゃ一緒に出かけましょ、と決心。下男のような雰囲気の男衆を二人つれて出発してしまった。
そんな女旅が出来たのか・・というのが実感です。どこの領内に入るにも出るにも手形が必要な建前だったはずだし、所々には厳重な関所もある。入り鉄砲に出女、と学校で習いましたよね。それが善光寺やら京都やら、金比羅やら、帰路では関東にも入っているから、ほぼ日本一周みたいなもんです。いたるところで賄賂をつかませ、手引きを受けて関所は裏街道を抜け、でもそんなに危ない橋を渡っている感覚はないみたい。幕末とはいえ、制度がいいかげんになっていたんですね。