「炎の門」 スティーヴン・ブレスフィールド

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文春文庫 ★★★

 

honoonomon.jpgペルシャ侵攻にスパルタ軍の小部隊が全滅した、例のテルモピュレー(小説の表記ではテルモピュライ。どっちが正しいかは知らん)の戦いを描いたものです。

けっこう面白かったですね。超軍事大国スパルタの市民=戦士たちの生活、発想、戦い方などなど、非常に新鮮でした。強い戦士を育成するという点では、ある意味、完璧な合理性を追求したポリスなんだなーという印象。

寡聞にして知らなかったのですが、この地峡で全滅したのはスパルタ軍の先遣隊300人でしかない。世界史の授業では、なんでたったの300人なんだろうと疑問でしたが、要するにこの時点でスパルタは主力を投入する意志はなかったらしい。相手のクセルクセスは呼称200万!。ま、どう考えても勝てる戦いではなかった。ただし、あっけなく負けるわけにもいかない局所戦だった。

あと知らなかったのは、ギリシャ側はスパルタだけではなく、一応は連合軍だったということ。ただ、あくまで中核となるのはレオニダス王に率いられたスパルタの300人だったらしいですね。

細かい筋はどうでもいいんですが、ファランクス(重装歩兵密集陣形)の闘い方のイメージが非常に明確になりました。小説の中で登場人物が「戦闘は労働だ」と言う。確かにそんな雰囲気です。まるで大規模なスクラム押し合いのような雰囲気。最前列はもちろん槍を振るったり短剣で刺したりするんですが、ファランクス同士の衝突となるとその方陣の「圧力」が勝敗を決める。何重もの縦列が楯でグイグイと圧力をかけていく。相手を押し倒す。倒れた敵を踏みにじり、足元の敵を槍の石突き(釘のようになっている)で突き殺しながら前進する。

ですから押し切ったファランクスの後方は、地面がまるで畑のようにこねられてウネができている。浅くてもクルブシ。深い場合はふくらはぎので深さにもなる。当然、失禁もするし血も流れるんで、ドロドロです。泥田の中で牛が押し合ってるようなもんでしょう。

なるほどねー。こうした「労働力」では鍛え抜いたエリート戦士集団スパルタがピカイチだった。ただ、歴史的にはこのスパルタもテーバイのエパミノンダスが考案した斜方陣に破れ去る。その斜方陣も運用が非常にデリケートなんで、いつも成功するわけではなく、そのうちマケドニアの長槍方陣(破壊力抜群!)が主流となる。長槍も重くて扱いが難しそうですが、そのためマケドニアでは市民兵ではなく、熟練したプロの兵士を使っていたらしい。さらに鈍重なファランクスを核としながらも、軽装歩兵や騎兵などを加えて機動力を増したのがアレクサンドロス。

なかなか面白いものですね。