毎日新聞社 ★★
下野日光の在から出てきた二人の少年が丁稚奉公。ほどなく感性を生かして花のお江戸で次々と起業商売、しかし大富豪になることもなく、感動的な恋愛があるわけでもなく、ま、骨身を惜しまず働いて子供にも恵まれ、そこそこの生活をしていく。
そういうお話です。ストーリーらしいストーリーがあるわけじゃありません。すべて辛抱、すべて努力の人生。目立たぬよう、後ろ指をさされないよう、しかし貧乏はしないよう、平凡といえば平凡な江戸町人の一生です。小説といえるかどうか、ちょっと疑問でもあります。
たぶん、半村さんはこういう坦々としたものを書きたかったんでしょうね。人生、ドラマなんてそうあるものじゃない。あるいは言葉を変えると、どんな庶民だって毎日が小さなドラマの連続でもあり、とりたてて大騒ぎするような出来事なんてあるもんじゃない。
半村良、何歳になったんだろう。勝手な解釈ですが、老境というものなのかもしれない。ストーリーと人間ドラマ作りの名手が、ストーリーに飽きた。派手なドラマを書きたくなくなった。
大川の水が流れるような、起伏のない上下巻です。