「魔女は夜ささやく」 ロバート.R.マキャモン

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文藝春秋 ★★★

 

nightbird.jpgマキャモンというと「少年時代」あるいは「遥か南へ」ですか。一般的には「少年時代」が有名みたいですね。どちらも独特の叙情のようなものがあって、けっこう好きな作家です。

で、今回の「魔女は夜ささやく」。原題はSPEAKS THE NIGHTBIRD。Night Birdってのは辞書をひいたらフクロウでした。マキャモンにしては珍しく(ひょっとして初?)時代もので、セーラム魔女事件から7年後、新世紀を眼前にした1699年という設定です。場所もだいぶ南に下ったカロライナの新開拓地です。

初老の判事と若い書記が陰惨な雨の中、魔女事件でつぶれかかった開拓村へ馬車を走らせるところからストーリーは始まります。道はドロドロ、体は冷え、日も暮れかかり、痩せ馬はいまにも倒れそう。ふと見ると街道沿いに新しくできたらしい粗末な家がある。旅籠です。

という導入部、味がありますね。煙が目に染みる、暗く惨めな旅籠にいるのは粗暴そうな親父と頭のボケかかった老人、老婆。そして妙に魅力のある若い娘。ついでに大ネズミの群れ。娘に名前はありません。ただ「娘」と呼ばれています。娘の汚いスカートが書記の体に触れたとき、「陰部の匂いを嗅いだような」フェロモンが漂います。フェロモンですから、若い書記は敏感に反応してしまいます。

ひたすら汚い。ひたすら猥雑で野卑で暴力的。当然の成り行きとして、夜中になると怪しげな連中は金槌やら三叉やらを手にして襲いかかってきます。命からがら逃げ出した判事と書記はなんとか開拓村までたどり着き、そこで捕らわれている魔女を見る。この魔女を合法的に裁判にかけるのが、この二人に託された仕事というわけです。

なんといいますか、ミステリー仕立ての時代劇。あるいは青年の成長ストーリー。当時としては自立した魅力的な女(魔女はボルトガル系で浅黒い肌、目は怪しい琥珀色!)との恋愛もの。ここにスペイン人やアホなインディアン、謎の宝物などなどが絡んで、こんがらがった糸のような構図です。で、最後の数十ページで込みいった謎はサクッと解決する。

大団円はかなりご都合主義ですけどね。乱暴なくらいスンナリしてます。でもそのお蔭で、グチャグチャはスッキリして、一種のカタルシス効果は生まれている。そしてなんせマキャモンですから、男と女は一緒に暮らそうなどとは言わない。書記は女に別れを告げ、ニューヨークで法律家としての道を歩むために村を出て行く。さようなら琥珀の瞳のレイチェル。キミにはキミの人生があり、僕には僕の人生がある。

ま、よかったです。