「夜の子供たち」 ダン・シモンズ

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角川文庫 ★★

 

yorunokodomo.jpg最初の数ページを読んで、あ、既読だった・・と後悔。それにしては展開に記憶がない。この本、以前読んだことがあるのか、なかったのか。不思議。

ドラキュラ伝説の新解釈です。要するにトランシルヴァニアのこの一族、一種の免疫不全体質で、そのため血を定期的に摂取する必要がある。でも、こういう解釈、他でも読んだことがあるような気がするなー。

ま、それはともかく。このドラキュラ話と現実のチャウシェスク独裁体制終焉を絡めて、独特の雰囲気をかもしだしているのは巧者シモンズです。過去と現在、中世の吸血鬼と現代の独裁体制。繋がるような繋がらないような、不思議な相似形。独裁打破後のルーマニアの陰惨さがなんとも言えません。

そんなふうに舞台設定はなかなかいいのに、ただ登場人物がなんと言いますか、類型的。あるいはハリウッド的。美人医師は大立ち回りをするし、片足の司祭も大活躍。味方なのか敵なのかわけのわからない青年は結局のところ、■(伏せ字)だし。終盤はかなりご都合主義な感もあります。このへんのドタバタ加減はダン・シモンズの特質なのかも知れません。この種がけっこう多いような気がする。

そうそう。本筋とあまり関わりはありませんが、串刺し公ヴラド・ツェペシュ(ドラキュラ公)の回想部分はけっこう味があります。この串刺し公、超残忍ではあったものの歴史的には対トルコ防御戦争の英雄であったことも事実のようです。