講談社 ★★★

半村さんという人、昔から会話が上手な人でした。しっとりした情感を、短い言葉のやりとりの中に込めていく名人。特に詳しく描写もしていないのに、たとえば夜十郎とおきぬの絡みは実にエロティックにもうつります。交合の際におきぬの「腹がへこむ」という表現のあたり、笑ってしまいましたが、考えてみると実に新鮮な言葉ですね。こんなドライな言葉で表現された男女の交情シーン、読んだ記憶がない。
惜しい人をなくしたなぁと、あらためて思います。もう少し長く書いてほしかった。遺作(でしょう、きっと)の江戸打入りなぞ、この年にして新境地かな・・というものでしたが。