★★★ 講談社
ふと思い出して海音寺潮五郎の「孫子」を再読。再読というより、再々々読くらいでしょうね。適当に細かい部分は忘れているので、けっこう読めます。海音寺ものってのは、どれを読んでも一種の香りのようなものがある。
この小説の孫子はあまり偉そうではないです。英雄豪傑ではない。田舎ディレッタントであり、恐妻家であり兵法マニアであり、でもそれゆえプライドもある。欲に目をくらまされていないので、危険になる前に身をひいて、怖い奥さんがいなくなると若い妾を可愛がって、年老いてからできた孫を溺愛して、どうしようもない幸せな老後を送る。立派な人生です。
何代かあとに生まれたもう一人の孫子も、ま、若いうちはいろいろありますが老後は権力から身をひいて、若い奴隷女を可愛がって小市民としての生活をまっとうする。それでいいじゃないか!というお話。
読み終えてから安能務の「春秋戦国志」(文庫で3巻)なんてのもあったことを思い出し、これも引っ張りだして通読。だいたい同じ時代のお話なので、微妙にダブっていて面白かったです。海音寺はもちろん飽きさせず読ませてくれるし、安能本はちょっと臭味がナンですが、でもそれなりに悪くはない。
安能本の「臭味」をどう説明しますかね。大昔に読んだ「封神演義」なんかが典型ですが、とにかくく巻頭から巻末まで八丁味噌かニンニク醤油か、それともカレー味か、とにかく均質の強い味に染められているのでので、かなり飽きるけれども一応は食べきれる。ま、なんとか春秋戦国の3巻も読み切りました。
で、またまた興味が伸びて(血迷ってというべきか)、司馬遷の「史記」なんてのを借り出してしまった。昔なつかしい筑摩世界文学体系です。それにしても活字が小さくてギッシリ。こんなのを目の良い少年時代とはいえ、よくまあ読んだものです。
通して読もうなどとは考えず、適当に拾い読みでしょうね。
そうそう。図書館の棚を見たら海音寺さんの西郷隆盛・新装版(全9巻かな)が並んでいました。これ、なんか完全に通読した記憶がないんです。読みたいけど、書棚にはなぜか第1巻がない。2~3巻があって4巻~6巻がなくて・・・と虫食い状態。こういう借り方をする人、よくわかりません。全巻を一気に借りるとか、あるいは1~4巻までまとめて借り出すとかなら理解できるんですが。
ま、人それぞれ。いろんな読み方はあると思うのですが、虫食い、とくに第1巻を借り出されると、手が付けられないんですよね。