「転生夢現」 莫言

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★★★★ 中央公論新社

tensei.jpg偶然出会った本ですが、これは凄い。こんな作家をいままで知らなかったなんて。

著者の「莫言」はもちろん「言うなかれ」ですね。言う莫れという筆名で、猛然と書きなぐっている。あるいはのほうずに書きつらねている。

ストーリーは中国の山東省の田舎町、ある地主の死から始まります。国民党が追いやられてしまったんで、当然のことながら圧政の象徴である「地主」はぶっ殺されます。オレはなんも悪いことしとらんぞ!と恨み骨髄の地主は地獄の閻魔の裁定にも納得せず抵抗し続ける。

で、手を焼いた閻魔庁は反抗的な地主をロバに転生。生まれ変わったのはもちろん故郷の山東章高密県。で、かつての正妻やら二人の妾や子供たちが苦労したり、保身をはかったりするのをロバの目で見る羽目におちいる。

やがてロバが死ぬと次は牛、それから豚になり犬になり・・と転生が続きますわな。最後に猿になるころは中国ももう21世紀です。人民公社が促進され、毛沢東の大躍進が始まり、破綻し、紅衛兵が騒ぎまわり、そして個人農家の再開、発展。農民たちもナイキのスニーカーを買ったり、金持ちはロレックスを腕にはめたり。

という長い年月をとうとうたるホラ話でつづります。中国のガルシア・マルケスという評はもちろん当たっていますが、私はブルガーコフ(巨匠とマルガリータ)なんかもちょっと連想。なんというか、ひたすら土臭く、暴力的な大河小説なんですが、濃厚な詩情があるんですね。

豚は空を飛び、水にもぐる。怒った豚は尻をかじり取り、ロバは狼と戦う。可憐なお月さんは地上に近づいていっしょにダンスする。巨大なボス犬は1000匹の部下を統合して、深夜に酒盛りと乱交パーティを実施。

上下2巻、飽きずに読めました。莫言の本は他にもいろいろ出版されているようなので、次も期待です。(嘘か本当か知りませんが「アジアでノーベル文学賞にもっとも近い作家」なんだそうです)