★★ 角川文庫
また古い本をひっぱり出してしまった。昭和52年 12版、茶色に染まった文庫です。
もちろん読み返しですが、今回は「しずのおだまき」と「法皇行状録」について。
鎌倉幕府の成立でさっぱり不景気になってしまった京の傀儡(くぐつ)連中。このままでは正月も迎えられないってんで一計を案じます。
標的となったのは小心な坊主。坊主といっても頭を丸くしているだけの俗坊主で、財産というほどのものはないけど奥さんの実家が多少の庄を持っているので、その仕送りでなんとかやっている。で、同じ敷地内にはやはりウダツの上がらない隣人も住んでいる。
で、くぐつ連中は大芝居を打って、当家の姫が貴僧にぜひとも嫁ぎたいといっている。ただ今は屋敷の普請中なので、とりあえずは婿殿の屋敷に住まわせていただきたい。
その姫、もちろん美人で妖艶です。おまけに話では多大な財産も持っているらしい。色と欲にくらんだ二人は奥さんを離縁したり、とりあえずの金策をしたりと大騒ぎ。
で乗り込んできたご一行は暮れから正月、食ったり飲んだりさんざん楽しんだあげく、ケツが割れたらではさようなら。楽を奏し、唄を歌いながら去っていきます。ようするに傀儡連中、楽しい正月をすごすことができた・・・というお話。
もう一つの「法皇行状録」。法皇とは花山院のことです。まだ十代の花山天皇が仏心に目覚めて剃髪を考えるけど決心がつかない。すると忠実な家来のナニガシが「私もお供つかまつります故」と心強いことを言う。
現役の天皇がいきなり仏門に入るなんて例はありません。二人で御所からとんずらして、ナニガシの寺に駆け込んで(もちろん住職も最初から共謀)、頭をゾリゾリしたところで、くだんの家来が「あっ、用があるのでちょっと帰ります」といって逃げてしまう。うぬ、騙されたのか・・・。という人。
このお話は何かで読んで知っていました。有名な話らしいですね。調べてみたら「寛和の変」という事件らしい。
で、その花山天皇、なんでこんな事件を起こしたのか。なんでも栄華物語によると、寵愛する中宮だか女御だかの死で諸行無常の心境になったらしい。ただし、この人、とにかくハチャメチャな色好みで、なんでも人臣いならぶ中で係の女官を御簾の中にひきづりこんでまぐわいなされたとか、美人の評判あれば次から次へと際限なく恋文かいて無理やり御所に呼んだとか。おまけに飽きっぽくて、1カ月もするとすぐポイッ。
そりゃ周囲は迷惑します。高級貴族にとって娘は大切な財産。うまくいけば女御、中宮に差し出すこともできるでしょう。皇子が生まれれば将来は天皇の外戚も夢ではない。それなのにデキの悪いティーンエイジャーの天皇(おまけに短期政権は確実視)にかたっぱしからキズものにされたんじゃ困ります。
で、東宮(皇太子ですわな) のオジイサンである藤原のナニガシが、早く政権交代をさせるために陰謀をたくらんだ。こっちは大鏡に書いてある説らしいですが、面白いので海音寺さんは当然のことながら採用です。
花山院、もちろん修行なんて続けられるわけはないんで、すぐに本性ばくろ。また次から次へと女に手をだしちゃスキャンダルを巻き起こす。手を出すべきてはない人にまで手を出してしまうので、かなり困った人だったようですが、ただ不思議なことに芸術分野の才能はかなりあったみたい。和歌なんかも、非常にいいものを残しているそうです。絵や造園などにも才を発揮したとか。もちろん私は見たこともないですが。
半ば狂気、なかば天才芸術家。天皇に生まれないほうが幸せだったのか、竹の園生に生まれたからこんなに勝手なことができたのか。そのへんはナントも判断が難しいです。