「蛙鳴」 莫 言

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★★★ 中央公論新社

amei.jpg比較的新しい本です。舞台はもちろん高密県東北郷。語り手は「オタマジャクシ」という劇作家希望の男ですが、ストーリーは新生中国の女医である伯母さん(万心)を中心に繰り広げられます。

「伯母」は共産国家に忠実な、芯まで赤い地方医です。賢く、行動力があり、そして悩みながらも冷酷である。情熱に燃えて1万人ちかくの嬰児を無事出産させ、そして一人っ子政策が開始されると数千人の胎児を情け容赦なく中絶させます。もちろん嫌がる男たちを問答無用で次々とパイプカット。

男の子を生みたい女、跡継ぎを欲しがる家族。それを取り締まる政府と医師たち。当然のことながら大騒ぎが始まり、血が流れ、悲劇が生まれます

莫言という人、こんなに正面きって一人っ子政策という問題と向き合ったんですね。もちろん莫言ふうにシッチャカメッチャカな展開ですが、でも中身はかなり真面目です。

でも「伯母さん」がかなり魅力ある人間に描かれているので、スイスイ読めます。

ところで本筋とは関係なく、個人的に意外だったのは文革中のエピソード。前から紅衛兵の吊るし上げで、蹴ったり殴ったり(その結果として死亡したり、自殺したり)は日常茶飯だったようですが、なぜか直接的に銃や刃物が使われたという記述を目にしたことがないし、強姦についても読んだことがない。

「結果的に死ぬのはしかたないが、積極的に殺してはいけない」というような雰囲気があったんでしょうか。殴るのはいいが、強姦はいけないとか。

ところがこの小説の中では、ドサクサに紛れて吊るし上げ相手を強姦する男の話が出てきます。やはりね、と納得。ただしその男(王脚だったかな)も、相手を妊娠させちゃいろいろマズイらしい。さいわい「伯母さん」の手でパイプカットされてたんで、安心して悪いことができた。

ここまではやってもいいが、ここから先はいけない。ナントカにも三分の理。

中国でこんな本が出版できるようになったんだ。