★★★ 朝日新聞社
南国。深夜のジャングルを恐怖にかられて走る男。なぜ逃げているのか理由は不明ですが、暗闇の中を飛び交う毒虫や落ちてくる山蛭の触感、なぜか駝鳥までかたわらを疾走する。怖いですね。
で、名前もしれない青年は、やはり山道をとんとこ歩いている少年と出会う。少年は宮古なまりのきつい、イケメンです。いい加減そうで、のびのび育って、いかにも女が放っておかないタイプ。少年は山の中のナントカ訓練塾から脱走してきたところです。朝は早いし、マラソン強制されるし、あんな集団生活はやってらんね。
出会った二人が途中で知り合ったコンビニ勤めの女のアパートに転がり込み、そこからまたいろいろあって、それぞれの方向で自活をはかる。一人はホストクラブに潜り込み、一人は那覇の安ドミトリーでスタッフの仕事にありつく。
沖縄のけだるい空気、いいかげんな生き方、きれいに言えばロハスであり、仲間との共生であり、地上の楽園であり、あるいは無気力であり。そんなのんきな生活が続くわけもなくて、やがて現実との厳しい衝突がやってきます。
名を失った青年の過去がだんだんに明らかになってきます。家庭崩壊、家庭内暴力、無責任、派遣、消耗、絶望・・・。かなり、暗いです。やりきれなくなってくる。
那覇にきてからけっこう現実的でたくましいように見えた青年も、実はどんどすり減ってくる。ドミトリゲストハウスのかっこいい経営者も、実はかなり俗っぽい人間だし、もう一人の少年にしても、ホストクラブがそんなに楽しいばかりの勤めであるわけがない。
そして、一気に破局。破局と言い切っていいのかどうかが難しいとこですが、どちらにしても一気に変わります。変わった結果がどうなるのか。それは知りません。勝手に考えてね。たぶん、作者もそのへんは投げ出しています。
かなり面白い本でした。一気に読みました。当然のことながら、登場人物、女のキャラがよく立っています。自然で、生きている。そうそう。やたら出てくるうちなーぐち(沖縄ことば)や宮古ぐちが、のんびりした良い味だしてます。