★★ 講談社
ヴィクトリア女王の御世が大英帝国の最盛期だった・・ということは知っています。また第二次大戦以降、帝国は衰退し、米国にとってかわられた。これもまあ常識の範囲でしょうね。では質問、どこで英国は凋落を始めたのか。はい。よく知りません。
この「帝国の落日」上下巻、ヴィクトリア女王の即位60周年祝典から稿を起こします。このへんが頂点だったということのようです。で、何がキッカケとなって英国は衰退を開始したのか。
著者は「ボーア戦争」と主張しています。この戦争、高校の世界史教科書には必ず載っているけど、内容はほとんどわからない。せいぜいで「オランダ系の住民=ボーア人」と英国が戦って、勝ったことは勝ったけど英国は手ひどい打撃をこうむった・・という程度。
で、「帝国の落日」を読めばそのへんが分かるかというと、実はよくわからない。金鉱脈の利権がらみでアフリカの貧しい移民たちを相手にした「ちょいとした制圧戦」が、いつのまにか本格泥沼ゲリラ戦、総力戦(ボーア人にとって)になってしまった。それまでの植民地での戦争と違うのは、まがりなりにも白人、武装したプロテスタント、女子供も含めた住民との戦いだったこと。なんかドイツが武器援助などバックアップした雰囲気ですが、ま、英国にとってあんまり経験したことのない戦いだった。
農民百姓を相手の大苦戦で、要するに威信が大きく傷ついたんでしょうね。動機もそもそも感心できないものだったし。
前から感じていることですが、なんか英国の外交政策というのは、一種のアマチュアリズムみたいな印象がある。じゃ他の国はプロなのか?と問われるとそうとも断定できないのが困りますが、システムではなく、人的関係とか、人柄とかによって外交や政治が左右されるような気がしてなりません。
たとえば日本で(あくまでですが)小泉S次郎という政治家が気の利いたことを言ったとする。もちろん日本ではまったく相手にしてもらえません。こういう人を取り入れるシステムがない。しかしこれが大英帝国でコーイズミ公爵のご子息は小才がきいているという評判になると、首相や大臣も気に入って、突然インド総督に任命したり。で、任命されたコイズミ総督が縦横に手腕をふるって(本国の指示をあおごうとしても遠すぎる)、結果的にインドの運命を変えてしまったりする。
かなり乱暴な言い方ですが、ま、そんなふうな印象がありますね、英国には。
これがエリザベス一世の時代なら、寵臣のナントカ侯爵が女王におねだりしてアメリカ遠征軍の指揮をとらせてもらうとか。素人丸出しで好き勝手やって、失敗すれば首チョン、またはロンドン塔、たまたま成功すればガーター勲章で現地総督になって栄耀栄華。
なんか話が横へ横へズレていくなあ。収拾がつかない。やめます。
ま、いずれにしてもパックス・ブリタニカといってもインドは元からグチャグチャになっていたし、中東はアラビアのロレンス暗躍の頃から支離滅裂になっていたし、アイルランドは独立するし、カナダやオーストラリアは生意気になるし。こうした世界の動きを徹底的に弾圧しよう・・・とはしなかったのが英国。
つまり、けっして帝国主義=悪人じゃない。「あの色付き人種の甥ッ子ども、困ったもんだなあ」と心から心配している伯父さんみたいなもんです。なんとか助けてやろうとは思っている。しかしその発想はいわゆる「上から目線」ですわな。だから感謝してもらえない。常にピントがずれている。親切したのに喜んでもらえないから伯父さんも傷つく。
大成功した会社の会長みたいなところもあります。大成功したことがあるもんだから、新しい経営方針が立てられない。古株幹部の記憶にあるのは過去の成功体験・成功手法だけ。それでもふんぞりかえって偉そうにしていたら、あれっ?黄色い猿みたいな軍隊にシンガポールを陥落させられてしまった。パーシバル、山下のYesかNoか!です。白人が黄色人種に完敗した。
ま、そんなこんなで自信を失い、植民地をどんどん失い、さらに生意気なナセルをやっつけようとしたスエズ侵攻で決定的に国際的な信用を失い、わけのわからないコモンウェルスもアイマイなままでであり続け、いまのブリテンになってしまった。イングランドとスコットランドと北アイルランドの連合王国。欧州大陸からぽつんと離れた島国です。ヨーロッパでさえない。
なんかなあ。衰退の理由がわかったような、やっぱりわからないような。ヘンテコリンな本でした。もちろん歴史書、史書ではありません。「歴史をメインにおいた逸話集」みたいな本ですね。呼んで損はしなかったけど、さして感動も残らないような・・・。けっこう疲れました。