★★ 東洋書林
副題は「民族・征服・環境の歴史」。そのとおりの内容です。
ま、コロンブスが発見したかどうかはさておき、15世紀からの新大陸進出で先住民がどんな目にあったか。「白人みんなウソツキ!」と言ってられた北米はまだしも穏当なほうで、メキシコとかペルーなど中南米ではほとんどが奴隷化だったみたいですね。
で、アマゾン。いまでもヤノマミなど裸族が存続していますが、一山あてようとアマゾンを遡ったポルトガル人の冒険家(野心家)たちが河のほとりに見たのは、ちょうどヤノマミふうの集落だったようです。諸説ありますが、ざっと数百万人が川沿いに村を作っていた。ただし「純朴な人々が平和に暮らしていた」と美化するのは論外で、しょっちゅう戦争したり奴隷にしたり奪い合ったり。そのへんは昔のヨーロッバと同じです。
ポルトガルの食い詰め連中からすると、こうした裸の先住民は「動物」ですわな。動物だけどバカじゃないから、脅かすと船を漕いでくれる。力仕事もするし、道案内もする。女日照りの荒くれ男にとっては便利なセックス対象にもなる。粗末な山刀やビー玉なんかをプレゼントにして買収したり、労働力にしたり、奴隷刈りをさせたり。奥地では何をするにも人手、つまり奴隷が必要なんです。白人が力仕事をするのはコケンにかかわるし、役にもたたないんで。
というわけで、金を探す、キニーネを探す、ゴム液の採集をする、大木を伐採する、食べ物を集めさせる、牧場を作る。膨大な労働力はみーんな奴隷に頼るわけで、その奴隷も粗末に扱うからすぐ死んでしまったり、密林の奥に逃げてしまったり。
わずかな年月で川沿いの集落はあっというまに全滅。熱心な宣教師連中は蛮族を教えさとして教化村に集めて暮らすようにさせますが、そこで何をするかというと、やっぱ下働き。形式的には雇用ですが、報酬は限りなくゼロ、あるいは詐欺に近い契約内容の労働力ですから、実質的には奴隷です。もちろん文句いったり逃げようとすると格好の口実ですぐ厳罰、処刑。あんまり人手が足りないので、仕方なくアフリカからも盛大に奴隷を輸入した。
なんやかんや、劣悪な食い詰め者、空回りの宣教師、強欲な商売人、堕落した政府、免疫のない部族に壊滅的な打撃を与え続けた疫病。「発見」以来、ほぼ500年のアマゾンの歴史は悲惨そのものです。
それでもアマゾンは広いです。先住民の回復はもう無理ですが、川沿いに強欲連中がガタガタやってる分にはまだ密林の自然の回復力を信じていることもできました。ただ問題は「道路」。密林を切り開く壮大な道路建設によって、奥地でも比較的便利に暮らすことができるようになった。どんどん人々が住み着き、背骨から出た肋骨のように、道路周辺のあちこちに進出して開拓する。
道路、チェーンソー、ブルドーザがアマゾンを物凄いスピードで食い荒らしているんだそうです。昔だったら大木を切り倒すのは大変な作業でした。湿った森に火をつけたって、簡単には燃えません。しかし道路、チェーンソー、ブルドーザのセットがあれば、仕事は超イージー。で、養分を溜め込んだ木を切ったあとの地面は意外なことに薄く痩せている。大雨の後は土壌がすぐ流出してしまう。おまけに貴重な大木を一本切り出すと、搬出やらなんやらで他の木も20本以上が影響を受けて枯れてしまうんだとか。もちろん切り出した木材の主要な引き受け手はニッポンです。
とかなんとか。なんとか分厚いのを読み終えましたが、暗~い気分。後味の悪い一冊でした。現実ってのは、常にスッキリしない嫌なもんなんですね。
※詐欺に近い契約
たとえば中流に住む実業家の子分である「奥地の現地監督」が先住民に山刀と鍋を2つ、食料を数日分くらい与える。「これをやるから働け。ゴム液を集めてこい」と命令。しかし毎日どんなに必死に森で採集しても、その借金は返却できません。そういう仕組みになっている。女郎屋の前借みたいですね。タチの悪い親方だと「このやろ、ノルマに達しないぞ」と鞭打ち30回。足カセに繋いで罰する。あるいは「借金のカタに女房と娘はもらった」というやつ。しょっちゅう「運悪く」死ぬ先住民もいますが、ま、それは形の上では「事故」「虚弱体質」です。