★★★ 文藝春秋
いろんなテーマで書いてくれる荻原浩ですが、今回の主題は老人。ついでにその対局になる子供。町の有料老人ホームと保育園。経営者が同じで敷地が隣接していて、ある日その隔ての壁がとっぱらわれる。そもそも老人と子供は相性がいいはず・・という勝手な思い込みですね。誰がそんなこと言った? 実際には老人にとっても子供にとっても非常に迷惑な話です。
登場する老人たちが生き生きしています。もちろん体はガタがきているし頭はボケている。でも一人一人の老人はみんな個性があるし(当然です)、それぞれ違う欲望や思惑、過去をかかえている。ただ年をとるとそれをあまり表面に出さないだけ。若い人から見ると同じような外見にうつるだけ。
で、子供だってそうです。ひとくくりにすれば「アホなガキ」ですが、実はそれぞれ小さな悩みを抱えているし、ガキなりに個性もある。彼らの場合はそれをうまく自己表現する能力がないだけ。
ストーリーは非常にシンプルで、年寄りからムシリ取ろうと、あの手この手を画策している老人ホームの理事長とその一族。ことなかれ主義で運営している保育園。腹を立ててはいるけど面倒なんで長いものに巻かれろの入居老人たち。空威張りの老人会々長。ちょっと色っぽいボケ婆さん。アホな保育園児たち。そこへ正義感あふれる一人の老人(経歴不詳)が立ち上がって反旗をひるがえす。
英雄的な行動の結果、結果的にはスッキリ勧善懲悪・・・とはいきません。そこは大人の世界ですから、ごく穏便なありきたりパターンに落ち着くんですが、それでも前よりは少し改善されたかという程度です。そんなもんでしょう、きっと。
かなり笑えます。さんざんドタバタ騒ぎで、でもだんだんワクワクしてきて、最後は少しシンミリする。上質なエンターティンメントと思います。荻原浩、子供を描くのは上手な人だと思っていましたが、老人を描くのもうまかった。