「英国紳士、エデンへ行く」マシュー・ニール

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eikokushinshi.jpg★★★ 早川書房

プラチナ・ファンタジイとかいうシリーズの本らしいです。いかにもファンタジーふうの装丁ですが、あんまり内容とはマッチしてないような気がしますね。

さて、ヴィクトリア女王の御世、とある誠実な牧師が霊感を受けて「そうか、エデンの園は実はタスマニアにあったのだ!」と気がつきます。大発見。それを実証するためにスポンサーを探し、サクソン優生主義の医師やニートふう植物学者を隊員として集め、壮大な 後悔 航海を開始。ただしレンタルしてしまった船は、依怙地なマン島の船乗り連中が一儲けを狙った密輸船だった・・・。

紳士たちを乗せた船はゴタゴタしながらも大西洋の波濤をわたり、ホーン岬を通過し、はるばるオーストラリア大陸の南東、タスマニアへ。船長は、隠していたブツ(ブランデーとタバコ)をこっそり売り捌く機会がなくて焦りくるっています。ほんとうはイングランドで取引する予定だったのに、いつになっても捌けない。破産の危機。(このマン島の船乗り連中、いい味出してます。)

かなりブラックなユーモアというか、シリアスなんだけどドタバタ劇。ストーリーは何十人もの語り手の観点から綴られます。これがみーんな超主観的というか(当然です)、自分は正しい、自分は親切。相手は無知でアホで無信心で無礼。

時系列はちょっとズレますが、タスマニアでアザラシ漁をしていた一人のならず者が、なぐさみ用にそのへんの女(もちろんアボリジニ)をかっさらって鎖でつないで小屋に飼っておきます。ところがその現地女、頑固だし頭は切れるし力はあるし、隙をみつけて相棒の白人を叩き殺して脱走。脱走してからも彼女の生涯テーマは「復讐。あの白人、必ず殺す!」です。

で、復讐を誓ってはいたんですが、無念なことに子供が生まれてしまう。体は黒いのに髪だけは幽霊みたいに白っぽい子供。かんぜん仲間外れにされ、母にも愛されないで育ったこの少年も主要な語り手の一人になります。

少年が成長していく間、島では大々的なアボリジニ駆り出しとローラー抹殺作戦を展開。害獣駆除みたいなもんです。もちろんアボリジニも一応は槍をもって抵抗する。たまに味方になろうという白人も少数はいるんですが、あくまで白人観点の「善意」で、哀れな野良犬を保護するみたいな感覚なんでしょうね。かえって迷惑です。服を着ろ、屋内で寝ろ、ウォンバットの肉なんか食べるな、木の根なんて齧るんじゃない。礼拝にこい。神を讃えよ。祈祷を暗記せよ。

とかなんとか。殺されたり疫病にかかったり、小さな島に隔離されたり、短期間でタスマニアのアボリジニは絶滅してしまいます。

そして、そんな時、ついにさまざまな思惑と紳士たちを乗せた船がタスマニアの港に到着です。街には、生き残っていた混血少年(もう少年ではないけど)もいます。ここで二つのストーリーラインがついに合流。

探検隊が隊列をつくって奥地へ進み出してから、ストーリーは一気に動きます。バタバタバタッと動いて・・・どうなるかは書けませんが、いやはやいやはや。最後の最後は大笑いしてしまいます。
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ちなみに原題は English Passengers です。



ネットで見た原書のカバーはこんな雰囲気。
だいぶ印象が違います。