「鼠たちの戦争 下巻」デイヴィッド・ロビンズ

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★★★ 新潮文庫

rat.jpgベッドサイドの本棚にあったので、なんとなく読んでみました。たぶん3回目くらいの再読。上巻を探しましたが発見できず、仕方なくいきなり下巻からです。

内容はスターリングラードの攻防戦におけるドイツとソ連のスナイパー同士の決闘です。決闘といっても何百メートルも離れているので、なんといいますか、非常に地味ですね。はるか遠くの塹壕から出ているヘルメットの先端かなんかを発見する。狙う。引き金を引く。敵陣からはギャッともヒェーとも声は聞こえてきません。

もしチラッと見えていたヘルメットが吹っ飛べば、たぶん相手は死んだはず。あるいは「あれは当たっている!」と狙撃手が自信を持てれば、たぶん成功。戦果帳を出してメモを付ける。

地味ですね。

で、上巻ではいろいろあった記憶がありますが、要するにウラルあたりの田舎猟師(当然ながら平べったいアジア系)が、狙撃手として頭角をあらわす。あんまり銘酒名手なので、現場の狙撃兵速成スクールの教官になる。教官になっても、あいかわらず現場で戦っています。

通常、狙撃手というのは地味な存在です。ひっそり行動するのが普通で、顔が売れるなんてことはない。でもこのスナイパー=ザイツェフ(兎)の場合は、政治将校がプロパガンダのために新聞に掲載してしまって、育ちや考え方、狙撃パターンなどなど大公開。これが敵に知られるってのはかなり危険なことです。

そこで有名狙撃手ザイツェフを殺すために派遣されたのがドイツの誇る狙撃手学校校長、親衛隊大佐ハインツ・トルヴァルト。いい気になってるソ連軍の有名スナイパーを殺して意気消沈させようという魂胆ですね。

このトルヴァルト大佐。なかなかいい味出してるキャラです。まったくタフではなく軟弱色白、上品でフニャフニャの臆病者。もちろん育ちはよくて、スポーツハンティングで腕を磨いた人です。はるか遠くの絶対安全な場所から、ン百メートル向こうの敵を正確に殺す。オリンピックかなんかに出たらまずメダル確実という名手ですか。

で、エリート大佐と田舎猟師が、陰惨な「鼠たちの戦争」のスターリングラードで知恵と狡猾さと腕前を比べ合う・・というのがメインストーリー。最後は直接対決するんですが、その結末は、ま、お楽しみ。ただ読み直してみて意外だったのは「こんな経緯で結末がついたんだっけ?」というあっけなさです。

ザイツェフは実在の人物だそうです。しかしトルヴァルト大佐のほうはどうも怪しい。ソ連側が宣伝のためにでっちあげた「悪者ライバル」だったかもしれません。

ちなみにフィンランドには「白い死神」といわれた超人的な狙撃手がいたそうです。確認戦果だけで505名。ひぇー。おまけにこの兵士はスコープを使わないで照星と照門で狙撃をするのが常だった。やはり猟師だったそうです。ケワタガモ(どんなカモじゃ)を撃ってたらしい。知らんかった。