★★★ 集英社文庫
上下巻。まったく期待しないで読みました。ところが意外や意外、かなりの良著・・・・でした。てっきりトム・マグレガーの「エリザベス」みたいなハーレクインもんだろうと予想していたんですけどね。
視点はブーリン姉妹の妹、メアリです。ブーリン家ってのはたいした家柄でもない新興貴族ですが、母親が名にし負うハワード家。したがって叔父さんがトマス・ハワード、つまりノーフォーク公爵になる。大貴族です。
当時のノーフォーク公爵というのがどの程度の勢力をもっていたのか、実はそのへんがよくわかりません。Wikiによるとトマス・ハワードの祖父は薔薇戦争の最終戦・ボズワースの戦いでリチャード三世と共に討ち死にした。プランタジネット側だったんですね。なるほど。
しかし息子はこのボズワースの戦いの勝者・チューダーのヘンリー七世に仕えて、うまいこと王の義妹と結婚。死別のあとはバッキンガム公の娘と再婚してトマスをもうける。
横道ですが、さらにバッキンガム公ってのは何だ?と調べると、ま、これも当時の大貴族。ただし三銃士に出てくるバッキンガムとは関係ない血筋みたいです。ややこしい。
ようするに当時の大貴族の姪だったわけですね。大貴族連中は機会があったら実権を握ろうとみんな画策してたようで、ブーリン家の二人の娘が美人なのを幸い、なんとかヘンリー八世に近づけようとする。で、最初は妹のメアリが寝室にはべります。前に読んだ「ウルフ・ホール」に出てくるメアリも蠱惑的な美人に描かれていました。もちろんフランス宮廷仕込みのコケティシュな女です。
このメアリとアン、どっちもどっちのよく似た女なんですが、妹は気が利かない。よくいえばちょっと地味でおとなしい。姉は才気煥発で打算に長けている。二人は愛し合っているけど憎み合っている。生まれたときからライバル同士。難しい関係です。
この難しい関係がなかなか面白かったですね。妹のほうは怖い叔父さんやら父母に命じられて、ちょっとした地位やら所領やらを稼げれば十分という感覚ですが、姉はなんとか女王になろうと画策している。野望に身を焼き、それを実現させ、そして破滅していくアン。見捨てたいけど見捨てることもできず、いらつき、でも最後は地味な亭主と子供、静かな生活を選択するメアリ。
かなり史実に忠実な描き方のようです。地味な郷士と結婚したメアリですが、その子供たちはその後の歴史にけっこう重要な役目を果たすようになる。Wikiによるとウィンストン・チャーチルとかダイアナ妃、チャールズ・ダーウィンなどなど、すべてメアリの系譜だそうです。
「愛憎の王冠」 上下巻。
★ 集英社文庫
続編です。時代はブラッディ・メアリの治世、エリザベス一世の若い時代。
ユダヤ人の女道化師の視点で展開という趣向ですが、あんまり成功した感じはしません。もっとストレートに描いてほしかった。ここに登場する若きエリザベスはかなり狡猾で魅力的です。色男ロバード・ダドリー(レスター伯)が、けっこう格好よく活躍します。
そうそう。エリザベスものなら「エリザベス 華麗なる孤独」という本もありました。こっちのエリザベスも煮え切らない狡猾な女性です。煮え切らなくて男の趣味も悪いけど、なぜか英国は大国への筋道をつけていく。