「宮廷の愛人」フィリッパ・グレゴリー

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★★★ 集英社文庫  

boleyn3.jpg「ブーリン家の姉妹」シリーズの3です。でもなぜ「ブーリン家の姉妹」なんですかね。そのほうが売りやすいと思ったんだろうか。

エリザベスの即位から数年間。視点人物は野心に燃える色男ロバート・ダドリー、その妻であるエイミー・ロブサート、国務長官(かな)のウィリアム・セシルの3人です。

ロバートてのは、ノーサンバーランド公爵ジョン・ダドリーの5男です。ジョン・ダドリーはヘンリー8世の子供であるエドワード6世が死ぬと(殺したという説もある)、自分の息子と結婚しているジェーン・グレイ()を引っ張りだして、次の女王にしてしまった人。でも、あっというまに失敗。謀叛人として首を切られてしまいます。ダドリー家ってのは代々、謀反人を輩出する家系みたいですね。

とうぜんロバート・ダドリーもロンドン塔にぶちこまれたんですが、、ま、運良く釈放してもらって、エリザベスの時代がくると一気にのし上がります。爵位とか領地はほとんど失ってましたが、でも女王の寵愛をうけるようになってからは、勢力を回復。でも単なる愛人じゃ不満です。なんとかして正式にエリザベスと結婚しようとたくらんだようです。

当然のことながらウィリアム・セシルは女王をスペインやらオーストラリアやらスコットランドやらの有力な王族と結婚させようとします。女王の結婚というのは、国家にとって完全な政治マターですよね。どこの国と結びつくかでイングランドの未来が決まってしまう。

でもエリザベスはダドリーのほうが可愛い。でも表立って結婚話を拒否もできないので、あっちに媚びたりこっちに愛想ふりまいたり、でもやっぱりダドリーがいいわと思ったり。セシルはイライラします。なんせダドリー、女や遊びごとや馬は得意だけど、自分が思うほど賢くはない。政治センスもないし、軍事的な能力もない。でも油断しているとこっちの足元も危なくなる。

そして田舎にひっこんでいる妻のエイミー・ロブサート。ダドリーとは価値観がまったく違う女性。自分が邪魔者あつかいされてることが気がついて、惨めになる。嫉妬に狂う。狂うもんだからダドリーはいっそう離れていく。おまけにエイミーはカトリックが捨てられません。

ということで、3人の希望や思惑が衝突して最終章。エイミーが殺され、ダドリーは野望を阻止され、エリザベスは結婚をあきらめて国家を選択、「バージンクィーン」として生きることを選択する。ま、そんなような内容です。けっこう面白かったです。

たしか夏目漱石の「倫敦塔」に、このジェーンの亡霊が出てきたような。亡霊というより「幻影」か。