★★★ 講談社文庫
井上靖は好きでした。子供の頃から、たぶん刊行されたもののほとんどは読んでいると思います。とくに自伝的要素の強い洪作もの、「夏草冬涛」「北の海」なんかは繰り返し読んでいます。比べると頻度は落ちますが西域ものもいいですね。
ところで勝手に断言してしまうと、井上さんの現代小説に登場する女性はだいたい2種類しかないと思っています。ひとつは「上等な」女性。たぶん井上さんはこのタイプにコンプレックスを持っている。品があって強くて、すこし意地悪。もうひとつは「女鹿のような少女」で、純粋清冽かつ一途。
楊貴妃はもちろん「上等」な部類の女性です。皇帝に召されて夫から引き離され、もちろん素直に従うけれども強い自我を持ち、わがままです。嫌なものは嫌。ならぬものはならぬ。死を命じるんなら命じろ!
この女性像、「淀どの日記」「額田女王」なんかとも共通しています。男どもの政治、権力争いから身を引こうとはしているが、でも巻き込まれてしまう。立場と時代ですね。仕方ない。
読むたびに印象に残る部分は異なってきますが、今回は楊家の3人姉たち。三国夫人です。みんな美人で賢くて口が上手で、度を越して派手に遊んだみたいですが、そうした贅沢も権力もしょせんは義理の(名目上の)妹である楊貴妃しだい。
貴妃が失脚すれば、もちろん楊一族が連座させられるのは決定事項です。いわば薄氷の上での権力。それを彼女たちはしっかり自覚していて、でもうたかたの享楽であっても貪りつくそうとしている。太く短くでもいいじゃないの、楽しみましょう。ある意味、けなげです。
ということで、「淀どの日記」も読み直してみました。