★★★ 講談社文庫
前から読もうと思っていたものです。ただ、図書館のデータベース上では両方あるはずなのに、現実の書棚にはなぜか上巻しか発見できない。消息不明です。
仕方なく主義に反して上巻だけ借りました。こういうこと、よほど厚い分冊でない限り、やらないんですが・・。
上巻はロンドンを発ってからオリエント急行でトルコ、イラン、アフガニスタン、パキスタン、インド、そしてセイロンまで。こよなく列車の旅を愛するシニカルな中年男が、ひたすら飲み、読み、話し、うんざりし続ける旅の記録。叙述はかなりオーバー目であり、しっかり偏見に満ち、汚い連中は大嫌いだけれど、しかしそんな貪欲で貧しい人々を(ほんの少しだけ)愛する気分も持っている。
いったいいつ頃書いた本なんだろう。えーと、調べてみると「The Great Railway Bazaar」は1975年刊行と発見できしまた。38年も前なのか。日本では昭和50年。まだソ連がしっかり大国だった時代ですね。イランもホメイニの革命が起きる前で、パーレビ王健在です。
今もたぶんそうですが、この当時列車が通りすぎるユーラシアはものすごく貧しいです。そもそも名にし負うオリエント急行だって、中身はボロボロ。食堂車がついていない路線もあるし、寝台車の切符を持っているからといって本当に寝台が確保できているとも限らない。車掌に数ドルのワイロを使えばすべて円満解決なんですが、でも悔しいから(できるだけ)ワイロを使わずに乗り切ろうと画策します。
聖人君子ではないので「イギリス人のオンナ、いるよ」と聞くとつい心を動かされたりもするし、危ない場所へいって怯えたりもする。ひたすら酒を飲んで寝て、たまに腹が立つといいかげんな車掌相手に口論もします。そうした人間臭さがこの旅行記の魅力でしょうね。訳者は阿川弘之。柔らかい、これなれたテイストの訳文になっています。
楽しめる本でした。続きの下巻、いつ読めるかは不明。下巻ではベトナムあたりから日本を通ってシベリア鉄道の模様。日本もしっかりこきおろされるんだろうな。