「隠された刻」坂東眞砂子

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:
★★★ 新潮社

kakusareta.jpgまだ刊行されて日の浅い本のようです。つまりホヤホヤの新刊。坂東眞砂子テリトリーである南洋の小さな島でのお話です。

場所的にはニューカレドニア付近かな。その小さな島には「砂絵」の伝統があります。砂に描かれた一筆書きの絵が島人の言葉でもあり、伝承でもあり、心を伝える手紙でもある。

ちなみに「隠された刻」つまりHidden Timesとは、表向きは「キリスト教伝来以前の時代」。つまり島人たちがまだ人を食う習慣をもっていた時代のことです。ようするに大昔。ほんとうにそれだけの意味なのかどうか。それは最後まで読まないとわからない。

小さな島にはいろんな連中が流れてきます。気を張ってる時だけはバリバリ営業マンに見えないこともない旅行社の支店長。少し疲れ気味の女性社員。肥満解消に成功した青年海外協力隊の教師、酔うと軟体動物化して抱きつく看護師、テレビ番組のロケハンに訪れた冴えないプロデューサー。宝探しのマッチョなフィリピン男。

時代を遡れば、もっといろんな連中もこの島に流れてきています。明治期なら出稼ぎから脱走してきた坑夫。坑夫といっしょに里帰りした島育ちの売春婦。昭和は帝国陸軍少佐。特攻から引き返した操縦士。3つの時代の訪問者たち、つまり粒子・量子たちはなぜか不確定性原理の嵐の中を吹き流されて、ついでに火を噴く活火山。なんか訳のわからない終末へ

ほんと、訳がわからない結末です。でも後味は悪くない。楽しい一冊でした。