★★ 徳間書店
副題は「何が起き、何が起きなかったのか」。著者はオランダのジャーナリストみたいです。
内容はここ100年のヨーロッパ。つまり第一次大戦以降の欧州史ですね。歴史といっても事実の羅列ではなく、いわばインタビュードキュメンタリー。著者があちこちの都市(ウィーン、ベルリン、レニングラード、パリ、ロンドン・・・)を訪れて、老人たちに当時の話を聞く。庶民、兵卒もいれば元閣僚もいます。もちろん軍人、将軍もいます。
そうした「語り」に著者が総括的な補足説明をする形で、長大な上下巻がくりひろげられます。
たとえばファシスト政権下のユダヤ人の扱い(イタリア人は迫害に意欲がなかった)とか、知らないことが多くて面白い本でしたが、基調はひたすら陰鬱です。この100年、ヨーロッパはひたすら殺しあい、迫害しあい、奪いあってきた。たった一人の悪人がいたわけではありません。ヒトラーだけが殺人鬼だったわけではなく、チャーチルやルーズベルトが善意の英雄だったわけでもない。フランス人がみんなレジスタンスに立ち上がったわけでもないし、ヴィシー政権が無力な飾り物だったわけでもない。
ドイツでもロシアでもパリでも、普通の市民たちが彼らなりの欲望と偏見と日和見と思い込みで悪行に加担してきた。もちろん今はみーんな口をぬぐっている。そういう利己と愚行と残忍の積み重ねが歴史というものなんでしょうね。
数字がやたら出てきます。ここで3000人が埋められた。ここで3万人が死んだ。ここで300万人がいなくなった。3000万人が消えた。読み進んでいくと気分が滅入ります。一時期、シベリアのどこかの地方では若い男が壊滅状態になったため、村の女たちは少数の男から順番に子種をもらうしかなかったというエピソードもありました。まるで「逆転大奥」ですね。
どこかの章で戦時下を生き残った女が「男は弱い性だ」と語る部分がありました。男たちは勇ましく立ち上がり、すぐ殺される。あるいは打ちのめされてもう立ち上がれない。女は必死に堪え、なんとか生き残れた女たちは日々のパンを捏ねて子供を産む。
今、少なくともヨーロッパの大部分はまがりなりに平和です。でも完全ではない。あちこちで相変わらず殴り合い、殺し合っている。この平穏、本物といえるんだろうか。もちろん、日本だって同様です。
かろうじて読み終えましたが、疲労はなはだし。