「獅子頭」 楊逸

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★★★ 朝日新聞出版

shishigashira.jpgシシアタマではなく「シーズトォ」だそうです。ついでに作者は「ヤンイー」。

中国東北、大連の近くで生まれた貧しい子供がすくすく育ち、最初は雑技団で修行するんですが、大怪我してしてしまってから恐怖で演技ができなくなる。しかたなくコックの修行を始めます。で、得意料理が「獅子頭」。大きな肉団子というか、ハンバーグみたいな感じでしょうかね。

料理店の娘と結婚して子供も生まれ、順風満帆・・・だったのに、偶然のことから日本のレストランへ行って獅子頭を作ることになる。このへんはマンガチックです。中日友好の架け橋だあ!てんで、いきなり党員に推薦されたり、国家の期待をになって意気揚々と東京へ。

でも日本のレストラン側からしたらたいしたことじゃないんですね。変わった料理のできるコックを中国から呼んだだけの話で、汚い寮に住まわせて、せっせと獅子頭をつくらせる。

主人公の二順は、シンプルな人間です。深く考える習慣がない。手足と胴体はあるけど、頭のない人間みたいなもんで、ひたすら周囲に翻弄される。どういうわけかフロア係の女に誘惑されて、いきなり妊娠を告げられる。

日中友好を裏切ってしまったんで、これで帰国したら国家反逆の罪で投獄されるかもしれない、困った困った。ちょっと出産の日数が変だなあ・・とは思うんですが、ま、責任取って仕方なく結婚してしまう。とうぜん郷里の妻子とは離婚です。

悪い人間は登場しません。みんなそれなり。新しい「頭」となる奥さんも特にひどい女ではなく、ボーッとしている亭主の腕をあてに小さな食堂を始め、せっせと尻を叩いて働かせます。二順も深くは考えず、ひたすら仕事をしてますが、ふと足りない頭なりに「これって資本主義の搾取じゃないか・・」とか考えたりもする。

二順は日本語をほとんど覚えません。考え方も中国にいたときから進歩はしない。ずーっと同じ人間であり続けてるんですが、あれれ、その故国がいつのまにか激変している。鄧小平から江沢民に時代も移り、人民はどんどこ豊かになってきている。

しかし二順はあいかわらず何も考えず、分かれた前の奥さんとヨリを戻せないかなあなどとグダグダ考えているだけ。困ったもんです。

そんなふうな、大きなドラマも起伏もない平凡な1冊です。けっこう後味のいい本でした。

ちなみに表紙のイラストは、人民服を着た二順がブーメランを投げている姿だと思います。この程度のことは雑技団の基礎があるんで簡単々々。