★★★ 中央公論新社
莫言の最新刊です、たぶん。ノーベル賞受賞で、あわてて刊行でしょうか。ただし執筆はかなり初期で、「赤い高粱」なんかの後にあたるらしい。
テーマは山東省のニンニク芽農民の暴動。鄧小平による改革のすこし後の出来事らしく、高値傾向のニンニク芽の生産を奨励した県が、いざ出荷の段階で買い入れを渋った。上手にやれば大問題にならなかったんでしょうが、役人連中も旧態依然で慣れていないし、当然のことながら私利私欲に走る。結果的に膨大なニンニク芽の売れ残りを抱えた農民たちが「買い入れろ!」と自然発生的に県庁を襲った。当時の中国にとってはショッキングな事件だったようです。
莫言にしては非常にストレートに描かれています。もちろん莫言らしく濃密な自然とか原初的な暴力とか愛とか、あっけなく訪れる無残な死が描かれますが、ちょっと遊びの要素が少ない。現実をなぞったため諧謔の出番が減ったということでしょうか。
「白檀の刑」の猫腔に似た歌うたいはいますが、こっちは盲目の民謡師で、当局に抵抗しつづけて抹殺されます。農村の因習的な暴力親爺、その妻、妊娠した娘、それを嫁にもらおうと必死の勇敢な若者、みーんな極度に貧しくて、みーんな死にます。
ちょっと悲しい小説ですね。腐ったニンニクの芽の悪臭が読後も漂います。胃の弱い人は読まない方がいいかもしれません。
別件ですがニンニクの芽、小さな中国料理店で食べたことがあります。汚い店でしたが店主が中国人で、初めて食べたのが「ニンニクの芽」の炒めもの、非常に美味しかったです。ただし食べたあとの臭いがすごい。会社に戻ったら同僚達が「どこかでガス漏れしてるぞ」と本気で騒ぎだしたくらい。
ラッシュアワーの電車の中ではひたすら口を閉じて、下を向いて帰りました。周囲の乗客の顔を見る勇気がなかった。