★★★ 文藝春秋
「幕末気分」の野口武彦さんの本。なんで「さん」なのか判然としないが、なんとなく付けたくなる作家っているものです。
わりあい真面目に書かれています。真面目という表現も変かな。力を入れて書いてるというべきかも。
とりあげた人物は7人。清河八郎、伴林光平、孝明天皇、山内容堂、相楽総三、小栗上野介、勝海舟。だいたい何をした人かわかるんですが、伴林光平は初見。
伴林光平。天誅組に加わった国学者・歌人らしいです。いい歳こいてから吉野へ駆け参じて、なんせ根が詩人なもんで人がよくて動き方が不器用で、つい逃げ遅れて処刑された。
このときさっさと上手に逃げた連中の中には明治の世で出世した奴もいます。世の中、要領ですね。
あと相楽総三。三田薩摩藩邸の浪士連中が暴れたときの首領株で、そのあとは赤報隊。いわば官軍東征の先鋒です。中山道を下っているうちに偽軍ということで処刑された。真相は不明ですが、年貢半減とか免除とか、(上層部の指令ではあったんですが)あんまり宣伝しすぎたんで、怖くなった新政府に責任とらされて殺された。その程度しか知らなかったので、なかなか面白かったです。
誰だったかな、海音寺潮五郎じゃなくてもっと古い作家、えーと確か江戸っ子で、お祖父さんかなんかが彰義隊だった人。当然、江戸びいきです。その作家の短編の中で、清水次郎長の敵役として有名な黒駒勝蔵(たぶん)のエピソードがあったと思います。
問題おこして暫く姿をくらましてたと思ったら、いつの間にか要領よく官軍に潜り込んで、それが赤報隊。沿道から威風堂々と行進してくるのを見上げたら、あれ、あの偉そうなのは黒駒のじゃねえか、なんであいつが・・と驚愕したという話。実際、この赤報隊、やくざもんがたくさん加わってたらしいです。それが官軍の威を借りてけっこう悪いこともした。それも相楽総三処刑の理由のひとつ。
海音寺潮五郎じゃなし、池波正太郎も違う、小島政二郎も雰囲気が異なるし、村上元三でもないような気が・・・・・・・うーん、そうか、子母澤寛だった、ようやく思い出した。
別件ですが、こうした侠客の評判の善し悪しはかなり恣意的ですよね。天保水滸伝では笹川繁蔵が良いもんで、平手造酒は悲劇の人。比してライバルの飯岡助五郎は大悪人です。でも助五郎の地元である千葉県の飯岡町へあたりでは、地元の発展につくした英雄でした。観光案内にもしっかり明記されてます。もちろん笹川繁蔵の評判はクソミソ。ははは。