★★★★ 中央公論新社
村上春樹訳。春樹は旅行作家ポール・セローと親交があるらしいですが(「ゴースト・トレインは東の星へ」の東京編には春樹が登場。面白い本です)、そのポール・セローの息子がマーセル・セロー。「あいつ、やっていけるんだろうか」という親爺の心配をよそに、息子は傑作を世に出しました。
はい。秀作と思います。
内容はあんまり書けません。ま、SFということになるんでしょうかね。てっきり北極探検の話かと思ったら違いました。近未来、荒涼としたシベリア北東部で孤独かつタフに生きていく話です。
ストーリーはいろいろドンデン返しの連続ですが、そうした表面の話とは別に、大きな流れとして「文明の利便のない社会で人間はどう生きていけるか。また孤独で生きていけるか」というようなテーマがあるんだと思います。極北の激しい気候、飢え、暴力、血、裏切り、ちょっとした希望。
主人公の述懐スタイルで進んでいくので、すべて読者がすぐ理解できるように書かれているとは限りません。省略もけっこうあります。読み進んでいってから「ああ、そういうことだったのか」と知る事実もあります。
結局、救いがあるような、ないような。でも読後には何か爽やかなものが残ります。