雨の日の雑感いろいろ

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吾妻ひでおの「失踪日記2 アル中病棟」を読んで思ったこと。

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読んでるあいだ何かをぼんやり感じてたんですが、それが何だったのか。なんせトシなんではっきりしなかった。だいぶ時間がたってからようやく気がつきました。そうだったのか。

「集団生活」です。子供時代なら林間学校とか合宿とか。サラリーマンなら泊まり掛けの研修とか。あるいは長期の入院生活とか。あまり知らない人間同士がせまい空間で気を使いながらの生活。

年齢を重ねるにつれて、こういう集団生活の場は少なくなる。けっこうなことです。人間がどんどん狭量わがままになってるんで、たとえばこれから軍隊にでも入れられたら辛いだろうなあ。飯の不味いのは比較的我慢できるし、時間を決められた行動もなんとかこなせる。その空間でのルールをなるべく早く習得して、可能な限り快適に過ごすノウハウもたぶん持っている。でもアホ軍曹に理不尽ないいがかりでビンタ張られて我慢するのは悔しいだろうなあ。そもそも体力が限界まで減退してるし。

どっちにしても長期は無理。せいぜい1週間とか2週間が限度でしょうね。猛烈にストレスがたまる。

先日、定期検診で病院に行きました。待合室で座っていると、受付あたりでやけに大きな声で看護師としゃべっている男がいる。べつに変な人ではなく、単に声が明瞭かつ大きいんです。語尾も非常にはっきりしている。けっこう離れていても、話の内容がビンビン聞こえてくる。たとえば消防士とか建設現場とか、はっきり大きな声を出す習慣のある人なんでしょ、きっと。有能な営業マンなのかもしれない。

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とくに悪い人ではないし、男らしいタイプなんでしょうが、でもこんな人がいつも傍にいたらけっこう疲れるだろうなあ・・とぼんやり思いました。

集団生活では、いろんなタイプの人間と折り合いをつけながら暮らさなければならない。今でもある程度はできそうな気がするけど、それが長くなったら辛い。

「失踪日記2 アル中病棟」の吾妻さんも、他の患者やスタッフたちとけっこう丸く付き合っていたようです。病院だって経営利益が大切だし、看護師もいろいろ。馬鹿馬鹿しいことや理不尽なことは山ほどあるけど、だいたい人生なんてそんなものです。おまけにアル中病棟の入院生活は壊れかかった患者や自暴自棄の患者ばっかり。一見まともそうに見えても、ほんとうにまともな人なんてまずいないでしょう。みんな激しいストレスと底無しの恐怖をかかえているからアル中になるわけで、退院してからも80%はまた戻ってくるんだそうです。何回も入退院を繰り返しているうちにのたれ死にする。つまり生還率はわずか20%

そんな爆弾かかえた患者同士の共同生活はかなり酷いです。詐欺師まがいもいるし、人格破綻者もいる、暴れるのもいる。おまけに週替わりの役員に選出されたり、当番などの雑事もある。反省会のような集会にも出席しないといけない。てきとうに嘘も言わないといけない。集団生活では偽善も重要です。

吾妻ひでおセンセもけっこう円満に折り合いをつけてたようなんですが、でもだんだん苛立ちがつのってきて、最後の方では何回かブチキレになってます。マンガなんで軽く描いてるけど、かなりあったんだろうな、きっと。こういうブチギレ、いきなり理不尽に噴出してるんですね。理屈で怒ってるんじゃなくて感情の爆発。だからたぶん周囲から見たら訳がわからない。

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マンガの最終ページでは、そうしたアル中病棟をなんとか退院して、通常の喧騒の街に戻ってくる。社会復帰。枯れ葉が舞い、バスが走り、女子高生がぺちゃくちゃ話ながら通りすぎ、酔っぱらいが騒いでいる。そんな都会の街を、ちょっと下向いて吾妻ひでおが歩いていく。もちろん現実の吾妻日出夫はかなり大柄で(たぶん)根暗そうに見える、分別臭そうなオヤジです、たぶん。


話は違いますが今回の定期検診。人の声が聞こえにくくなったような気がします。明瞭に話してくれるぶんには問題ないんですが、たとえば視力検査機の小さなスピーカーが単調な音声で「上にあるレバーに右手をあてて画面のマルのなんとか・・」とか、ボソボソ説明してるのを聞き漏らす。聴力が落ちたんではなく、集中力が欠けてきたんでしょうね。看護師が「あそこの椅子に腰掛けて説明を・・」とか早口で言うのがよく聞き取れなかったりもする。

そういえば上部内視鏡の麻酔も今回はやけに効いた。検査室で横になって、点滴管を差して、口に突っ込んできたな、ウェ!・・と思ったら、その1秒後には休憩室で寝ていた。あれ、部屋が違うぞとかなりびっくりしました。ストレッチで運ばれたんではないと思います。たぶん検査が終わってからは自分で立ち上がって、看護師に支えられながら歩いて移動したんでしょう。ただし、その記憶が完全にゼロ。

ゼロってのは、かなり気味が悪いですね。ボンヤリでも覚えていればいいんですが、なにもない。空白。麻酔薬の1滴か2滴で人間の記憶なんてどうにでもできる。よくあるSFの設定ですが、ほんとうにそうなんだなあ。これも唐突ですが、ハンニバルのレクター博士といっしょに暮らしている(ブエノスアイレスだったっけ)クラリスも、なにか強力な薬を処方されてましたよね。人肉嗜好の殺人鬼と暮らす酒と快楽の日々をクラリスは記憶しているんだろうか。

そんなとりとめもないことを連想。意味ないですが、いちおうメモしときます。ダブル台風が接近とかで、今日も雨。