★★★ 新潮社
著者は元サンケイ新聞記者。北京の大学で勉強したとかで、中国語は達者らしいです。
中国でサンケイ記者といったら蛇蝎のように嫌われそうですが、この人は典型的な現場主義というか、とにかく取材対象に食らいつく。軍や党の要人たちにうまく接近して、いろいろ情報を得ている。もちろん何十回となく飯を喰ったり酒を飲んだり。会うときは必ず贈り物を欠かさない。そんなタイプ、確かにいるだろうなあという記者です。
なんかスパイ小説みたいです。変装をする。携帯をいくつも使い分ける。クルマを乗り継ぐ。とにかく周囲は密告者や手先だらけと覚悟する。自宅のベッドにも盗聴器がしかけられているのは当然。ちょっと危ない現場では、官憲にカメラの画像を消される前に素早くSDカードをダミーと差し替える。連行されたり恫喝されるなんてのは日常茶飯。
中国にいる多くの日本人記者や企業人、外交官たちが、諜報分野ではいかに素人まるだしで騙されやすいか。中国は海千山千の鉄火場。そもそも日本人には騙しあいとか交渉とかのセンスが欠けているのかもしれません。他社のナイーブな記者に対しての苛立ちもけっこう書かれています。
要人と会う場合は、すぐに取材しようとはしません。とにかく自慢話を聞いてやったり日本の考えを説明してやったりカラオケやって仲良くなる。最初は他人行儀な「野口先生」だったのが、そのうち「オマエ」になる。こうなればチャンスです。もちろん要人だって、簡単にうかつなことは話しませんが、あいまいながらけっこう本音情報を吐露してくれる。
ということで、真の権力構造がわかりにくい中国の、本当の仕組みや人的な絡みをいろいろ知ることのできる面白い一冊でした。。
現代中国を理解する手引きとしては、スーザン・L・シャークの「中国 危うい超大国」が既読の中では一番と思いますが、それに次ぐかもしれません。そうそう、小説ではあるものの、ノーベル賞作家 莫言の一連の物語も非常にわかりやすいです。
この三つ、要するに概観として評論家的に解説するか、そのパーツである官僚や軍人たちについての体験事実を書くか、あるいはもっと下層の農民・村レベルの感覚で著述するか。その違いでしかないですね。
たぶん有能かつ臭そうなこの記者(おそらくブンヤ仲間では異端者)、その後はサンケイを辞職して政治家を目指してるみたいです。維新だったかな。
中国13億人、腐敗や理不尽は多いものの、これはある程度歴史的な「文化」です。不合理だからといってトップにいる官僚や軍人が単なるアホなわけはありません。超有能。日本についても深く調べ、合法不合法に関係なくあらゆる手段で情報を得、真剣に将来の戦略を練っている。けっして軽んじちゃいけないですね。