「原始ゲルマン民族の謎」S.フィッシャーファビアン

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★★ 三修社

genshigerumanmizoku.jpg古代ゲルマン民族というと、金髪碧眼、戦斧をかかげて裸になって突進してくるアホな野蛮人という印象がありますわな。あるいは近世近代になると、背が高くて融通がきかず、勇敢で理詰めな連中という印象。極端に違います。

要するにカイザルの時代の野蛮人、あるいドイツ騎士団とかワグナー、プロイセン参謀本部です。

どっちも違うよ・・というのが著者です。もちろん崇高な英雄なんかではなかったし、かといって裸で髭だらけで大酒のんで騒いでる野蛮人でもなかった。いつも裸で暮らしていたわけでもないし、それなりの固有文化をもっていた連中。

まずゲルマン民族とは何か。純粋ゲルマン民族なんていないんだそうです。発祥は完全に解明されないないもののいわゆるインドゲルマン語族(インドヨーロッパ語族)。これがドイツ北部あたりに侵攻してきて、土着の巨石文化族と混交したのがゲルマン民族。印欧語族はあっちこっちで混交して、それぞれ雰囲気の異なる文化をつくりあげていた。

ゲルマン民族は背が高かった。ではどのくらいかというと、カイザルの頃はたぶん170cm台じゃなかったかと著者は推察します。巨人ではないんですが、なんせローマ人は背が低かったから、彼らからみるとゲルマンは大男で力も強かった。ローマ兵士にとってゲルマン人はやっぱ恐怖だったんですね。

ゲルマン人は定住しません。ほんとうは定住したかったんだけど、いろいろ都合があった。天候不順とか大水とか寒いとか。で、ゾロゾロと移動しては定住の土地を要求した。もちろん要求しても地元民からは拒否されます。そこで戦争。あるいは野心にかられたローマの将軍が、悪いことをしてない(はず)のゲルマンを殲滅する。奴隷に売りさばく。奴隷はいい金になります。ゲルマンの男は兵士として優秀だったし、金髪の女奴隷は非常に人気があって高価に売れた。

通読した印象では、困った連中ですね。力はあるのに団結できない。政治的なセンスがない。軍団同士が対峙すると、つい我慢できなくなって勝手に突進する。たまに勝っても、勝利を利用することができず、お祝い騒ぎにあけくれる。あるいは葬式に泣きくれていて、機を見るに敏なローマ軍に殺される。

時折すぐれたリーダーが出て団結するとものすごく強力になるんですが、ゲルマンのリーダーは「王」ではないようです。完全な指導権がない。「進め!」と命令しても、「うんにゃ嫌だ」とどこかの部族が反対する。リーダーがあんまり偉そうにしていると暗殺される

なんのかんのあったんですが、結果的にゲルマン人はライン川の東を確保します。ローマ軍団はライン川とエルベ川の間の土地をなんとか占有したかったのに、結局はできなかった。仕方なく「ローマはラインの境界まで後退」と決定。こうしてラインの西はローマ文化、東はゲルマンという区分けができた。それが良かったのか悪かったのかは、いろいろ言い分があるようです。

ローマは結果的にゲルマン人に侵攻されてしまいました。少子化もあってかジワジワとゲルマン系の兵士が増えてしまったし、最後は西ローマ帝国の滅亡。後に誕生したフランク王国なんかはもちろんゲルマン系です。

著者はたぶんドイツ人のようです。いっしょうけんめい「公正に解説」しようとはしているようですが、言葉の端々にゲルマン贔屓がにじみます。ま、当然でしょうね。


「考えすぎた人」清水義範
kangaesugitahito.jpg★新潮社

そうそう。清水義範の「考えすぎた人」も読みました。要するに「お笑い哲学者列伝」だそうです。

ただし著者も中で弁解しているように、哲学者がどんな論を展開しているかを説明するだけで面倒になる。書くのも大変だったでしょうが、読むのも大変。なんとか茶化そうとする試みも成功せず。珍しく失敗作かな、と思います。テーマが悪かった。