たしか「雑兵物語」だと思うのですが、どこかのネットに抄訳のようなものが載っていて、ザっと拾い読みしたことがあります。
いかにもベテラン雑兵の智恵集という内容で面白かったんですが、その中でいちばん意外だったのは「槍で戦うときは突くな。振りかぶって叩け」というものでした。
なるほど、もちろん槍は本来突くものですが、もし交わされてしまったらアウトです。スルスルっと手元に飛び込まれて、モゴモゴしてる間にやられてしまう。それよりは遠くから思い切って叩いたほうが効果がある。長さにもよるでしょうけど三間とか三間半とかだと重量はかなりあるはず。こんなのでブーンと叩けば、そりゃ効果がありそうです。頭を叩けば昏倒する。足を払えば骨折する。なるほど。
そういう目で見ると、大河ドラマの戦闘シーンで、なぜか雑兵が槍を斜めに持ち上げて突撃するのも(多少は)許せますね。あれ、ずーっと不満だったんです。なんで正面に向けて構えないんだ。横隊作って槍を平行に構えて進めば、和式ファランクスというかそれこそ槍ぶすま。ただそれをやると、エキストラの皆さんが怪我してしまう可能性はあるけど。
で、今年の「軍師官兵衛」。主役が岡田准一ということで、奸智に長けた官兵衛は無理だろう、また愛と義とか強調するんじゃあるまいなと半ばあきらめていましたが、いまのところ微妙な段階です。姫路周辺片田舎の展開なのになぜか信長・秀吉がやたら登場するとか、その信長がなんか体育会系みたいでわめきすぎるとか、いろいろありますが、ま、許容範囲。
で、この前は赤松勢と黒田勢の戦いがありました。槍の使い方に限らず前からどうも疑問に思っていたので、ちょっと列挙。
・なぜか主人公が馬に乗って突進し、なぜか馬上から刀を振るって戦う。大将が個人技で戦うのは禁じ手と思うんですが、必ずやりますね。いちばん酷かったのは一昨年の源平合戦でしたか、馬からおりて延々の一騎討ち。清盛があんなに武芸の達人とはついぞ知らんかった。
・鎧兜の相手は基本的に刀じゃ切れないと思うんですが、なぜか片手持ちで叩きます。折れそうです。かといって脳震盪くらわせるような重い大刀でもないし、不思議。大昔の「利まつ」では、さすがに犬千代利家が槍を使ってましたが。槍の又左ですから。
・弓の出番がなぜか非常に少ない。といって火縄銃があるわけでもないし。飛び道具は卑怯なんでしょうかね。どうも弓は面白くないってんで大河に嫌われているようです。(大昔の「風と雲と虹と」では弓が大活躍していました。矢合戦が主だった)
・戦いの最中はだれも休まず奮闘しっぱなし。史実重視の小説なんかでは、武将は戦いの合間にけっこう飯をくったり水を飲んだり、適当にやってます。刀をゴシゴシ研いだりたもする。何時間もかかるような戦闘ならそれが普通でしょうね。ただこれをドラマでやると緊張感が感じられないから困る。もちろん主役級が死ぬときだけは別で、急に周囲が静かになって、きちんと遺言をのこす時間があったりする。
・今回の官兵衛の土器山の戦、兵数がすくなくて閑散とした感じは良かったと思います。あっちで10人、こっちで20人という感じで、かなりバラバラに戦っている。一昨年の「平家」も保元の乱だったか、せいぜい100人レベルの兵士が狭いところで睨み合っていました。「八重の桜」でも禁門の変でしたか、門の前の狭い感じが出ていて、あれは秀逸だったと思います。
・仕方ないですが、武将はみんな馬に乗ってズンズン走りますね。疾駆する。走り足軽と一緒になってトコトコ走るんじゃカッコつかないからなあ。これは要求するだけ無理か。
・今回の官兵衛の土器山破れかぶれの急襲、テレビでは「戦える者だけ付いてこい!」とか部下にわめいてました。うーん、そうくるか。この部分、逆に「負傷者も戦え!」と無理言ったというのが通説になってると思うんですけど。そっちのほうが戦国らしくて臨場感がある。ダメなんだろうなあ。官兵衛がそんな非情な武将であっては困る。
なんやかんや多少の文句はありますが、ま、所詮はドラマ。たいしたことではありません。ただ最低限「主人公は平和を愛する聖人君子」という変なスタンスさえやめていただければ十分。基本的に好漢でもいいんですが、それでも人間なんだからときどきは悪辣な企みをいだいたり、欲をかいたり。そういう人間味をもってた納得できる脚本は無理かなあ。
あっ、人間味なんていうと、すぐ泣いたりするから困る。あの直江兼続は酷かった。清盛もよく泣いたりわめいたりしてました。