★★★ 原書房
大正時代というのはなんとなくホンワカした印象があります。日露戦争が終わって一流国扱いとなり、ロマノフ朝は崩壊し、第一次戦争では濡れ手に泡で好景気。満州事変もまだ起きていない。ま、相対的には平穏かつ幸せな時代です。
ここで取り上げられた内容は当時の新聞を賑わした情死や政治家非難、政変、陰謀、疑獄、テロ事件、貧困の数々などなどの裏面、詳細。知らないことも多くてそれなりに面白くページを追えるんですが、ずーっと通して読み終えるとなんか暗い気持ちになります。暗澹。陰鬱。これを「大正ロマン」などと言っていいんだろうか。
なんというか、よかれ悪しかれ明治の束縛・節制が破れて、庶民も女も政治家も、すべての人間の欲望・欲求が一気に吹き出した時代ということなんでしょうね。自由になった。主張することが恥ずかしくなくなった。個人尊重。好き勝手をやったっていいじゃないか。
精神の束縛が薄れて自由な行動を求める・・という意味では確かに「浪漫」ではあるんでしょうが。
ただナマな形で噴出した欲望は節度がなくて、男女の仲でも金銭でも野心でも、非常にグロテスクです。同時代の人たちはどう感じていたんだろ。平成の世と似たり寄ったりで、「ま、いい時代でござんしょ」とか言ってたんだろうか。それとも絶望したり憤っていたんだろうか。
正直、あんまり後味のいい本ではなかったです。
たとえば「坂の上の雲」ではストイックに軍拡に邁進していたように描かれる海軍ですが、実はその当時でも海外の軍艦製造会社から膨大な贈賄を受けていた。貧乏軍人が艦政本部に移転になると、急に家が建つとか、常識だったらしい。
あっ、表紙写真ですが、たぶん左の軍礼服は桂太郎。右の女は柳原白蓮かな。そういえば白蓮、ちょうど朝ドラにも登場してますね。仲間由紀恵。
・・・・ではなくて、正しくは松井須磨子みたいです。失礼しました。白蓮に似ているなあ。