★★★ 中央公論新社会
吉田富夫は莫言の著書をたくさん訳している人です。初期のものはまた別の訳者で、えーと、藤井省三という人が多いかな。
ま、最近刊行のものはたいてい吉田富夫訳だし、親交もあるらしい。ノーベル章をもらったんで中央公論が喜んで、こうした本になったんでしょう。
前半の半分以上は、莫言がどんな人物でどんな本を書いているかという紹介。後半は日本各地やストックホルムでの莫言の講演録です。それぞれ面白い。ま、このところ莫言にはまっているせいもあるんですが。
「豊乳肥臀」で当局の逆鱗にふれ、かなり苛められた。投獄も覚悟したらしい。しかしその後もスレスレのきわどい内容を書き続け、ノーベル賞をもらったので、ま、今後は安泰。
でも単に安泰というわけではなく、いろいろゴマ擦りもしているらしい。なんか毛沢東の言葉を集めて一冊の本にする(いいかげんな言い方ですみません。詳細は忘れた)というイベントでは、何も文句言わずに一部執筆を担当したようです。要するに当局による踏み絵ですね。こんなときには決して逆らわない。
たしか文芸協会の副会長かなんかやってたはずですが、これも想像とは違って十数人いる副会長の一人。しかもほとんど実権のない名誉職らしい。でも「辞退する!」なんて言わないで唯々諾々と従うのが莫言です。長いものには巻かれろ。
徹底的にしぶとい農民スタンス。青臭くない。まず飯を食う。安らかに暮らす。しかし積極的に迎合はせず、可能な限り小説の形で体制批判を続ける。正義に燃える文芸家たちからは「体制側だ」と文句言われているようですが、党にとっても実は扱いにくい作家でしょうね。
そうそう。ノーベル賞の授賞式というのが1週間も続く大変なスケジュールだったとは知らなかった。かなりハードなものらしいです。式典の途中、隣に座っていた山中教授が莫言の膝をそっと叩いて「今だよ」と起立のタイミングを知らせてくれたらしい。よかったです。(もちろん莫言、小学校中退なんで外国語はダメです。式典進行、何を言ってるかぜんぜん理解不能だったでしょうね)