★★★毎日新聞社
相馬といえば若いころから伊達政宗にとっては宿敵、目の上のタンコブ。独眼竜ドラマではしょっちゅう相馬と戦っている印象があります。
しかし政宗が当主となった時点でも、すでに両者の身上は比較にならなかったようです。伊達は五十万石、相馬は五万石。伊達が本気になれば相馬くらい簡単に踏みつぶせるはずですが、なかなか全力をあげての侵攻はできない。
伊達政宗は周囲に敵を作りすぎた。南を攻めれば北がちょっかいかける。西に進めば東が騒ぎ立てる。したがって相馬が伊達を侵攻するのは無理でも、少なくとも専守防衛は可能。小領主といえどもハリネズミのように国境を守っていればなんとか過ぎる。
なんだかんだと局地戦で頑張っていると、そのうち農繁期になります。農繁期に戦争はできない。無理したら兵士がいなくなってしまう。あるいは親類連中(どこの大名もみーんな親戚)が仲裁に入る。そこで一旦和睦。そういうのが陸奥の戦争でした。
なあなあで戦ったり和平を結んだりしてきた陸奥の領主たちの感覚としては、伊達政宗だけが異質です。暗黙のルールが通じない新感覚大名。したがってこの本はいわば「独眼竜政宗」の別ストーリーとしても読めます。
伊達の伸張が周辺にとってはどんな恐怖だったか。政宗はリトル信長、プチ秀吉みたいな感じで嫌われもしたし、恐れられもした。結果的に相馬を残して周辺はみーんな伊達にひれ伏してしまった。で、相馬だけが頑張り通した。
主人公は相馬義胤です。そこそこ有能であり武威もあるんですが、とくに英雄豪傑ではない。状況が読めずタカをくくって小田原への参陣が遅れ、あやうく改易の危機にひんする。でも伊達への抑えという役割を認められてなぜか生き延びる。三成が助けてくれたようです。
ということで三成に恩義があるし、そもそも佐竹の子分(寄騎)みたいな立場だったんで、関ケ原でも家康の味方をするわけにはいかない。結果的に専守防衛をきめこんで何もしなかった。許してもらえると思うのが甘いわけで、これでまた改易。
しかし今回もまたいろいろあって、なんとか改易撤回、所領安堵。相馬は常に「伊達への楯」という役割を期待されて生き延びることができたようです。憎い伊達でもあり、伊達のおかげでもある。そして平将門の子孫という血筋を誇りに最後まで国替えさせられず、ずーっと頑張り続けることができた。そういう頑固で融通のきかない小領主のストーリーでした。