新潮から山本周五郎の長編小説全集なんてのが刊行になっているんですね。びっくりしました。借り出したのは第10巻、2014年とできたてホヤホヤです。
山本周五郎のものはたいてい読んでると思ってましたが、たまたま目についたこの「風流太平記」というのは知らない。借り出してみました。
「風流太平記」はいわゆる痛快大衆小説のジャンルでしょう。大藩の陰謀に立ち向かう青年武士たち。そこに絡む女。手助けする子供たち。べらぼうに甘いストーリー仕立てです。
登場人物たちは、いろんな小説に出てくるキャラクターがそのまま類似で出没します。というか、こっちのほうが原型なのかな。
確か「末っ子」というう短編に出てくる兄弟関係そのまま、ちょっと抜けた末っ子とそれを厳しく見る兄。あるいは凜とした武士の娘と、その正反対に色っぽい女。気の強い孤児の少女と男の子。武士もの、忠義もの、下町もの、岡場所もの、山本周五郎のテクニックが総登場。
これをすべて入念に書き描いたら、代表作になるのかもしれません。ただしボリュームが5倍から10倍は必要。
それなりに楽しめる一冊でした。
若い読者を意識しているのか、すべてのページに脚注がついています。こんな言葉にも注が必要なのか?と思えるものが大部分ですが、ま、親切であるに越したことはない。ただこうした場合の注記ってのは、けっこうな作業ですよね。どうしても辞書引きまくりみたいな役に立たない変な注もありました。
実は最初のほうの脚注。
三尺 = 三尺帯。長さが鯨尺で三尺の木綿の帯。・・一尺は約38センチ。
これにひっかかりました。現代では「三尺帯」というと、柔らかな生地の、いわゆる兵児帯のことですよね。そもそも長さ三尺で腰に巻けるのか。
調べてみたら本当に三尺だったらしい。当然のことながら二重は無理で一重だけです。職人さんなんかが簡易に三尺手拭いを帯に使ったという説もあるらしい。それが後年、たぶん明治になってから長いものも三尺と称するようになった。
へぇーと驚き。てっきり「バイトの注釈係を使ったのか」と疑ってしまった。