筑摩世界古典文学全集 1 ホメーロス

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★★ 筑摩書房
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昔懐かしい筑摩の三段組全集です。けっこう読まれているらしくボロボロ。

うーん。それにしても三段組ってのは活字も小さいし非常に読みにくいです。こんなのを若いころは次から次へと必死に読んでたのか。目が悪くなるはずだ。

この巻はイーリアスオデュッセイアを集録。両方入ってしまうんだ。よく知りませんが訳者は呉茂一という人。もちろん韻文ではなく、散文の形をとっていますが、たぶん語順なんかはかなり元の調子を残しているんじゃないかな。したがって完全な散文のつもりで読むと、けっこう戸惑います。

また訳文がかなりくだけていて俗語感覚ですね。神々や武将の会話にしても、どっちかというと長屋の住人の会話みたいな感じ。重々しくて高尚というものではないです。かといって土井晩翆訳になると急に

 その進言に從ひてアガメムノーン統帥は、
 直ちに音吐朗々の令使に命じ、長髮の
 アカイア族を戰鬪に皆悉く招かしむ。
てな調子になる。これはこれで大変です。

ということで読み始めましたが、なかなか進みません。

で、途中ながらいろいろ感想です。

イーリアスの武将たちの戦いというのは、なんといいますか名誉をかけた部分もあるんでしょうが、どっちかというと財宝の奪い合いでもある。相手を殺したらすかさず鎧をはいで、それを部下にひかせた荷車にほうりこむ。そういう習慣文化だったんでしょう。鎧や金銀青銅の品々を奪う。女を奪う。羊や牛を奪う。そのために敵の男を殺す。集団強盗ですね。

ま、欲の皮のつっぱった王侯貴族がせっせと戦利品を奪うのはまだしも(そもそも戦争の目的の90%くらいは戦利品目当て)、戦いに参加した軍神アレースまでが倒した武将の鎧を必死ではごうとするのには驚きます。モノに不足してない神なのになんでじゃ。殺す=奪う。二つの行動が完全リンクなんでしょうか。高価そうな鎧を着た敵が目の前に倒れているのに、そのまま放置するなんてとんでもない。

まだよく理解できていませんが、当時の主要な武器は何だったのか。トネリコの槍がいちばん出てきますが、これは投げ槍なのか手槍なのか。印象としては両方に使い分けているような感じです。で、槍を投げて相手が倒れると倒れたのに足をかけて槍をグイッとひっこぬいて回収。そりゃ手持ちの槍の本数には限りがありまさな。

あと、剣も出てきますが、どうもこれは切るとか突くというよりぶっ叩くもののような気配がある。頭をゴーンと叩くわけです。青銅の剣だから、当たりどころが悪いと壊れたりもする。弓も使っていますが、これは鎧のすき間を上手に射ないと効果ないのかな。

そうそう。石も出てきますね。でっかい石を敵に投げつける。いったいどの程度の距離感で戦っていたんだろ。せいぜい数メートルという雰囲気です。よいしょ!と石を拾って、えいや!と投げる。のろ臭い戦闘です。

で、英雄たちの戦いだから、主要な武将以外の兵士たちがどんな戦をしたかはまったく不明。なーんもしていないような印象です。