「ラ・ロシュフーコー公爵傳説」堀田善衛

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★★★ 集英社
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惜しみながらページを繰り、ようやく読了。楽しい時間でした。

三銃士の裏小説という感じもありますね。この本、小説という形でではなく、一人称、二人称を使い分けながら本人が語る自伝という仕立てになっています。ま、それでも創作です。

時代は宰相リシュリューのあたりからマザラン、王室はアンヌ・ドートリッュからルイ14世です。ということは新教徒旧教徒が衝突し、ラ・ロシェルの包囲戦があり、やがてフロンドの乱の大騒ぎ。

で、フランス屈指の大貴族であるラ・ロシュフーコー公爵(フランソワ6世)は、この騒ぎに加わるというより、重要な駒のひとつとして陰謀の限りをつくす。陰謀は大貴族の家業です。あっちで戦い、こっちに潜み、その間にはロングヴィル公爵夫人なんかといちゃいちゃしている。しばらく逼塞していると呼び出しがかかって戦争に行き、勇敢に戦っては負傷する。ただけど活躍しているわりにはさして報酬は得られない。

17世紀は「女の世紀」なんだそうです。たしかに次から次へと凄い女性(もちろん才色兼備、行動力も抜群)が出てきますね。しかし見方を変えると、17世紀は貴族没落の世紀でもあった。ま、リシュリューなんかの政治方針が王権の確立だったわけで、そのためにいちばん邪魔になるのが文句ばっかり言って利権要求している貴族連中。

農本主義から商業経済へ移行しつつある世紀でもあったんでしょう。領地の上がりで暮らしているのに、見栄で贅沢をしなくちゃいけないんで、貴族はどんどん貧乏になる。だから多くの貴族がヴェルサイユに集まったのは、宮殿内にいれば借金取りから逃げられたためだった。これは意外な解釈でした。なるほどねえ。

とかなんとか。八面六臂の大活躍をして、ただし報われることもなく、やがて痛風で苦しむようになった老年のラ・ロシュフーコーは、ようやく落ち着いて執筆を始める。グタグタ書いては知人に見せて、けっこう評判をとったのがマキシム(箴言集)。

ま、そういうことのようです。

ラ・ロシュフーコー家の使い走りにグールヴィルという男が出てきます。最初は赤いお仕着せ姿で走り回り、交渉事に抜群の才能を発揮する。金銭の工面にも強く、要領がよく、どこの誰に会っても認められ、そのうち馬車を乗り回すようになり、やがては(旧)主人だったラ・ロシュフーコー公爵なんか問題にならない資産家になる。

家柄や身分ではなく、才能だけで出世する男が出てきた。17世紀はそういう時代でもあったんでしょうね。