なぜ西洋が世界を支配しているのか、というのがこの本のテーマです。
で、結論からいうと、メソポタミアあたりを中心として発展した西洋社会、黄河流域から発展した東洋社会、どっちも非常に似通った展開をしている。ただし地理的条件からメソポタミアのほうが早かったんだそうです。
チグリス・ユーフラテスあたりで始まった文明はどんどん拡大して、周辺が発展していく。黄河流域文明もそのうち長江のほうに広がる。ずっーと西洋のほうが先行はしてたけど、でもその道筋は同じだった。
著者はエネルギーの獲得量とか都市化の具合とか戦争能力とか、いろんな数字を総合した「社会発展指数」でこれらの発展度をグラフ化しています。この指数が正しいかどうか、調べた数値に信頼性があるかどうかは非常に怪しいですが、それでもある程度は説得力がある。で、その発展グラフを見ると、上がったり下がったりしながら、それでも大きな傾向としてはなだらかな右肩上がりを描く。西洋グラフを数千年遅れて東洋が追いかける平行グラフです。
しかし6世紀になって、東洋グラフがついに西洋グラフを追い越します。西ではローマ帝国が経営に失敗していた。ゲルマン民族大移動のあおりで西ローマが滅びたり、ゴタゴタしてどんどん落ち目。一方の東洋では混乱期を経て隋唐帝国が成立する頃です。この時代以降、しばらくの間は東洋優位が継続したらしい。
したがって、純粋な可能性としては、たとえば明の鄭和の大艦隊が新大陸を発見したかもしれないし、あるいは後代の清朝の使節がビクトリア女王に朝貢を強いたかもしれない。しかし、現実にはそうならなかった。明が内向き志向になったということもあるでしょうが、やはり地理的・政治的要因が大きかったのではないか・・が著者の意見。
ヨーロッパの西のどん詰まりのポルトガルやスペインがそのまま西へ航行しようと考えるのは理にかなっています。さいわい大西洋はそんなに広くもなかった。しかし、もし明が太平洋を横断しようと考えても、たぶん成功しなかっただろうし、そもそもの動機も薄い。中華帝国はそれだけで充足していたわけです。周辺諸国と必死に生存競争していたわけでもない。
こうして「たまたま」の理由から、18世紀の中頃にまた西洋が東洋を逆転する。そして何よりも産業革命。蒸気機関の発明が猛烈なブレイクスルーになった。一気に社会指標は跳ね上がり、西洋による東洋浸食がはじまる。
西洋の発展コアはやがて旧大陸から新大陸へ移動します。しばらくは米国の時代。そして今、東洋が猛烈に追い上げている。もともとの社会指標がけっこう高かった(潜在能力があった)日本が躍進し、ちょっと遅れて大中国も躍進。このままの推移からすれば、間違いなく東洋の時代が実現するでしょう。
そして更にその後・・・はまた別のお話です。社会指標は今後もスムーズに右肩上がりのグラフを継続できるのか。あるいはかつて何度もあったように天井にぶつかって大停滞に陥るのか。天井要素としては核もあるし、気候変動、食料問題、人口問題、いろいろありそうです。
けっこう面白い本でした。歴史は欲張りや愚か者や怠け者が作る。怠けたいから発明する。愚か者だから無意味に努力する。欲張りだから征服する。なるほど。
しかし仮に彼らがいなかったらどうか。多少の年代の遅速こそあれ、歴史は同じような道筋をたどったに違いない。それにも納得。もしコロンブスが事故死したって、その代わりの馬鹿者が必ずあらわれたはず、という理屈です。大きな潮流は変えることができない。