★★ 講談社
面白いけど、読むのはそう簡単ではない本です。躊躇しながらも、結局下巻を借り出してしまいました。時間がとれず、後半は飛ばし読み。
絶対主義といわれる国家にも区別があるそうです。強い絶対主義、弱い絶対主義、そもそも絶対主義とはいえない王政・・・だったかな。他にもあったようであんまり自信なし。
フランスとかスペインはいかにも典型的な絶対王政だったような気がしますが、実は王権は意外に弱かったらしい。要するに貴族とか第三身分の意向を完全に無視することはできなかったので、仕方なくそれ以外の連中、つまり農民身分から必死になって搾取した。収税システムがハチャメチャだったわけです。フランス革命の主体が農民とは思いませんが、ま、そうやっていじめすぎた反動が1789年になった感がある。
スペインも版図を拡げすぎたわりには、国内の徴税システムがうまく機能していなかった。王様の好き勝手はできなかったようで、つねに財政は火の車。新大陸から膨大な金銀は流入したものの、支出はもっともっと多かった。
ロシアは完全な絶対王政です。いろいろな経緯で貴族連中の力が非常に弱かった。ロシアってのは、確かにヨーロッバではない感じですね。ずーっとモンゴル系の支配者を見てきたせいか、考え方がアジア的。だから専制君主による強烈な体制が成立し、イワン雷帝なんてのは、やたらめったら貴族の首を切った。
ちなみに皇帝が弱い貴族連中に与える報酬は「土地+農奴」です。農奴も最初から農奴だったわけじゃないんですが、なにしろ広大なロシア、農民が逃げ出すと困るんで、法律で移動の自由をうばって農奴身分にした。ちょっと逆行です。
で、ハンガリーとかポーランドは、逆に貴族が強すぎて絶対王政とはいえない。王様が何をするにも貴族会議の承認を必要とする。特権階級による民主主義ですね。みんな自分のことしか考えていないから、外敵が攻めてくるとまともな戦争もできない。国家としての力が弱すぎて衰弱。
「国家」「法」「説明責任」のバランスが必要なんだそうです。前にも書きましたが「国家」「法」「説明責任」の自分なり解釈は。
・「国家」とは、たぶん政府の意思がすみずみまで通って実行できること。
・「法」とは、たとえ皇帝や政府であっても、ルールを勝手に破ることはできない。
・「説明責任」とは、政府が問答無用で住民を追い出しての大規模ダム造成はできない。
これがうまくいったのは英国とデンマークです。英国はコモンローが強かった。社会全体で共有するルールのようなものです。ただしコモンローがずーっと王権を制約してきたと考えるのも大間違いで、実はある時点で王権がコモンローを持ち上げてしまった。王様が「みんなコモンローを守れよ」とエリート階級に指示したため、結果として王様自身もその法に縛られる羽目におちいった。ま、ずいぶん乱暴な言い方ですが、それが英国のケースです。
デンマークはたまたまルター派の国でした。プロテスタントといえば聖書です。その聖書を読ませるためせっせと文字教育をした。民衆が賢くなったんですね。おまけに戦争に負け続けて、北欧の大デンマークが削られて(ほぼデンマーク人だけの)小さな国家になってしまった。他にも要因はあったようですが、そんな偶然の経緯でこじんまりバランスのどれた国家になったんだそうです。
そうそう。国家が豊かになってくると民主主義的になってくる。これは趨勢として言えるらしいです。ただし民主主義になると栄えるかというと、それは難しい。民主主義国家なのにまったくグズグズのことろはいっぱいあるし、中国とか、マレーシアとか、ちょっと前の韓国とか、専制的な体制でうまく発展するケースも非常に多い。ただし専制国家の場合「暴君」とか「アホな政府」が出現したときがどうしようもない。致命的な欠陥です。
もうひとつ、なぜ発展途上国はいつまでたっても発展途上なのか。理由は明白で、国家が国家としての役目を果たしていないから。どうして国家がスムーズに動けないかというと、行政が私利私欲、ワイロで動いたり、予算をちょろまかしたりするから。どうして収賄するのかというと、公務員の給料が安すぎて、それだけでは暮らせないからです。システムができていない。
民主的なだけではダメ。強い国家は必要なんですね。しかし放置しておくと勝手なことをするのも国家なので、勝手をさせないためには、国民のほとんどが納得する法の縛りが必要。また国家の施策を民衆を納得させるためには説明も必要。
世界で初めて中央集権システムを作り上げた中国は、ほんの一時期(中華民国)をのぞいて、ずーっと国家だけが強くて法や説明責任のない歴史でした。インドは逆で、強い国家が存在したことがなかった。だから何も決められない。
著者によると、今のアメリカも完全とはいえず、国家が弱体化しているみたいです。だから医療保険とか社会福祉など、政府が推進しようとしても実行できない。やりたくないのに海外派兵を強いられる。ようするにバランスが大事ということでしょうね。