★★★ 早川書房
アン・パチェットは「ベル・カント」で名前を覚えました。たしかペルーかなんかでテロリストによる人質占拠事件が発生。居合わせた男女に混じって世界的なオペラ歌手がいる。だんだんストックホルム症候群のような状況になり、それぞれ仲良くなり、そして・・・・というストーリー。けっこう後味の残る小説だったと思います。
今回の「密林の夢」はブラジルが舞台です。アマゾン川と支流のネグロ川がぶつかるあたりのマナウスという街は、たしかゴムとかコーヒー豆の集散地として栄えたはずです。そしてそのマナウスから、黒い川を少しさかのぼったジャングルの中に奇妙な集落がある。
ミネソタの製薬会社に勤務する女性研究員が、なぜかこのジャングルに出向く羽目になります。ミネソタですか。たしか州都がミネアポリスだったかセントポールだったか。降りる機会はなかったですが、大昔、飛行機の乗り換えで名前だけは記憶しています。空港の外は雪だったような。なんせミネソタですからね。たぶん寒くて清潔な北の州。蒸し暑くて濃密なアマゾンとの対比が面白い。
そうそう。もうひとつ。ミネソタの薬売りってのかあったような。なんか頭の隅に残っている。ん?帽子売りかな。いやちがう。タマゴ売り。なんでミネソタが卵売りなんだか。
で、その女性研究員(インド系。いろいろ過去に傷を負っている)がアマゾンのジャングルで予想通りのいろいろに出会う。黒く濁った川、襲いかかる昆虫、踏みつけると命にかかわる毒蛇、吹き出す汗。毒矢を射かける敵対住民。そしてけっこう可愛くなついてくる現地の少年。ジャングルの中の粗末な研究所ではモウレツに強い意志とリーダーシップをもつ高名な女性医師が老いた女王のように現地民たちを従えています。
とかなんとか。一応はSFふうですがストーリーはあまり重要な意味を持たないような気がします。そんなことより文明社会と対局にあるようなジャングル生物圏の濃密さ、グロテスクさを書きたかったんじゃないかな。
表紙デザインの雰囲気もあるでしょうが、シャーリー・コンランの「悪夢のバカンス」にもけっこう近いです。おなじジャングルものだし、主人公が女性だし。ただし冒険やサバイバルではなく、あくまで「文明と未開」がテーマだと思います。