若き信長が異国ふうの美女に出会う。心を奪われ、そして・・・・と書くといかにも三流時代小説の匂いがあります。
ただし描き手は清水義範。そんな想像通りの展開にはしません。女がなよなよしていない。明の交易商人の娘です。ちょっと信長と接触していろいろあるけど、すぐ海を渡ってしまう。マカオだったかニンボーだったかで女商人として活躍し、男妾を数人囲って暮らすという女傑。
ま、この女をキッカケにして信長が海外とか世界に目覚めていくというような展開でした。信長は日本を統一したら次は朝鮮、明、ルソン、シャム、あわよくばヨーロッパまで股にかけて交易しようという夢を持った。なんならすべてを版図におさめてもいい。
信長という人、こんなに有名人なのに案外と時代物の主役になっていませんね。残っているようで資料がないんだと思います。せいぜいで信長公記とか、公家さんの日記とか。そのとき何を考えていたのか何をしようとしたのか、具体的に書こうとするとけっこう難しい。
そういう意味で、なかなかよく書けている本と思います。清水義範だからもちろん読みやすい。スイスイ読んで、けっこう中身もある。信長はとにかく徹底的な合理主義者かつ商業の力に目覚めた人間。だから頑迷に逆らう叡山を攻めたけれど、べつに全山を燃やし尽くして女子供を皆殺しにしたわけじゃない。もちろんけっこう乱暴して殺戮はしたけど、ちょっと誇大に伝わったんじゃないだろうか。ま、そんなスタンスです。